『物性推算法 序』


化学物質の「物性」と呼ばれる物理化学的諸性質は凡ゆる工業の分野で必要な事は言うまでもない.大学の理工学部では物理系にしろ、化学系にしろ一度は「物性」を学習する事になっている.しかし,その学習は理論的な理解に重点が置かれているために,いざ具体的な問題を解決する必要に迫られた場合,理論的知識のみでは無力に等しい.
物性は便覧などに数値データとして収録されていて,各種便覧が出版されている.しかし,便覧には限られた物質の,最も利用頻度の高いデータに限定されて記載されていることが多く,具体的な問題の解決には直ちに役立つとは限らない。各工業とも技術の進歩が激しく,地球環境の維持などにも,従来にない条件下における化学物質の物性データが必要となっており,何らかの方法によりそのデータを入手する必要に迫られている.
このような要求に応えるべく誕生したのが「物性推算法」と言う学問分野であり,理学及び工学の各専門分野の学際的領域をカバーしている学問と言えよう.すなわち,物理化学の理論に立脚して工学分野の要求に対応すべく,「物性」を計算のみにより求める学問分野「物性推算学」とも言うべき手法が,此の約40年の間に確立された.例えば,物理学や化学で殆ど論じられることのない原子団寄与法は物性推算にとり強力な手法であり,今や,殆どの物性の推算に応用されている.あるいは,対応状態原理は理論的には古くに証明された原理であるが,物性推算に応用されるようになったのは,やはりこの40年来のことである。
本書は化学物質の気体および液体状態における諸物性を推算する方法を具体例により解説したものである.化学物質は純物質に限らず,混合物の推算法をも詳細に記述した.本書では,殆ど総ての推算法を網羅している.すなわち,物理化学の理論に立脚する方法,原子団寄与法および経験的な方法である.ただし,物性推算の新しい方法として,分子シミュレーションに期待が寄せられてはいるものの,未だ,実用の域には達していないので割愛した.
著者は先に,「設計者のための物性定数推算法」(日刊工業新聞社)なる書を上梓したところ,幸いにも多くの方々に利用して頂いた.しかし,種々の事情が重なり絶版のやむなきに至った.著者のもとに,何とか入手したいと言うご御要望が少なからずあるので,このたび書名も「物性推算法」と改めデータブック出版社より発行することとなった.最初の出版から約10年経過しているので,筆者としては最近の推算法を追加する事も考えたのであるが,推算法自体が10年以上前にほゞ確立されているので,次の機会にゆずる事とした.この機会に,巻末の「物性データ表」の大幅な増強を行い,前著では516物質であったのに対して,約2倍の1068物質とした.併せて融点のデータを新規に追加した.本書が物性推算を必要としている方々のお役に立つことを念願する.最後に,本書の発行にご協力頂きました方々にこの場を借りて感謝致します.

 

2002年1月

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