Block Copolymers
側鎖型ブロック共重合体のフォトリフラクティブ効果

1.はじめに
 近年は、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)が開発されたため、アクリレートモノマーのブロック共重合体が容易に得られる様になっている。ブロック共重合体は、フィルムにした時に内部にミクロ相分離構造が形成される。ホモポリマー、ランダム共重合体、ブロック共重合体でフォトリフラクティブ効果を比較することにより、このミクロ相分離構造がフォトリフラクティブ効果に及ぼす影響を検討した。

2.ブロック共重合体のフォトリフラクティブ効果
 D-π-Aモノマーと光導電性モノマーをブロック共重合したものについて検討を行った。ブロック共重合体では、構造が異なる高分子鎖が化学結合で結び付けられている。それぞれのブロックは単一高分子の性質を持っているため、フィルムを形成させた場合にミクロ相分離を生じる。単純に液晶性のD-π-Aモノマーと光導電性モノマーをブロック共重合した場合では、共重合比に関わらず、D-π-Aクロモフォアが液晶相を形成してしまうために、強く光を散乱するフィルムしか得られない。そこで、光導電性ブロックに、D-π-Aモノマーと光導電性モノマーの9:1ランダム共重合体を結合させた、ブロック−ランダム共重合体(図1)を用いた検討を行った。このランダム共重合ブロックは液晶相を形成しない。

ブロック共重合体のフィルムを透過型電子顕微鏡で観察した結果を図8に示す。ブロック共重合体のフィルム中では、直径100nm程度の球状のドメインが形成されている。図9に共重合比が異なる3種類ブロック-ランダム共重合体における、回折効率の温度依存性及び電界依存性を示す。ランダム共重合体と同様に回折効率はガラス転移温度付近で極大を示した。ブロック共重合体ではD- -Aクロモフォアの割合が少ない化合物でもフォトリフラクティブ効果が発現した。これは光導電性ブロック中では光導電性クロモフォアが密になっているので、D- -Aクロモフォアの割合が大きくなっても光導電性が大きく保たれ、内部電界が効率的に形成されるためと考えられる。
各共重合比のポリマーで回折効率を比較すると、D- -Aクロモフォアの割合が増加するにつれて回折効率は大きくなった。三種類の化合物とも光導電性ブロックの分子量はほとんど同じであるから、D-π-Aブロックの分子量の大きい方がクロモフォアの再配向による電気光学効果が大きくなったためであると考えられる。
図10は共重合比がCB6:DPH6 = 6:4、 図11は共重合比がCB6:DPH6 = 8:2になっているブロック共重合体、ランダム共重合体、ホモポリマー(光導電性化合物との混合物)での回折効率の温度依存性をプロットしたものである。図10より、ブロック共重合体及びランダム共重合体はガラス転移温度に達する前に回折効率は減少したが、ホモポリマーはガラス転移温度を越えてから回折効率は増加していることがわかる。図11ではブロック共重合体及びランダム共重合体はガラス転移温度付近でフォトリフラクティブ効果は極大を迎え、温度が高くなるにつれてフォトリフラクティブ効果は減少した。しかし、ホモポリマーはガラス転移温度を越えてから回折効率は増加した。図12は共重合比がそれぞれCB6:DPH6 = 6:4,CB6:DPH6 = 8:2におけるブロック共重合体、ランダム共重合体、ホモポリマーでの回折効率の電界依存性である。共重合比CB6:DPH6 = 8:2の50 V/ mでホモポリマーとランダム共重合体の回折効率の大きさは逆転しているが、それ以外は温度依存性と同様な結果となった。結果を比較すると、ブロック共重合体が最も大きなフォトリフラクティブ効果を示し、ホモポリマー、ランダム共重合体の順になった。この結果は、ポリマーフィルム中での各クロモフォアの分散状態が大きく影響していると考えられる。ブロック共重合体では局所的に多くのミクロドメインが存在するため、電荷移動効率や電気光学効果が増幅され、フォトリフラクティブ効果が大きくなっていると考えられる。ホモポリマーでは光導電性化合物の分布は均一ではなく、所々に微細な液晶ドメインが形成されているため、ランダム共重合体より大きなフォトリフラクティブ効果を示した。ランダム共重合体では光導電性が均一に分布してミクロドメインが存在しないため、アモルファス高分子と同様な性質をもっていると考えられる。
(図7、8、9、10、11、12)
6.まとめ
 以上、種々の共重合体におけるフォトリフラクティブ効果について解説した。ブロック共重合体で形成される微細構造とフォトリフラクティブ効果の相関に関する検討はまだ始まったばかりであり、これから様々な実験事実が報告されるであろう。ATRP法の開発によって、ブロック共重合ポリマーの合成は非常に簡単になった。異なる機能性高分子を化学結合によって組み合わせたシステムは非常に興味深く、工夫次第ではいろいろな特性を持った機能性材料を創ることが可能であろう。