Photorefractive effect of liquid crystalline polymers

1.液晶性高分子の等方相のフォトリフラクティブ効果
 当研究室では、種々の液晶性高分子のフォトリフラクティブ特性についての検討を行っている。液晶性高分子の液晶相は、一般に光を強く散乱するため、フォトリフラクティブ効果の検討は我々以前には全く行われていなかった。非線形光学クロモフォアをメソゲンとする液晶性高分子に、光導電性化合物と電子捕捉剤を混合したTgの低い材料(図1)を用いて検討を行った。フォトリフラクティブ特性の測定は、2光波結合法と4光波混合法(いずれも633nm He-Neレーザー)によって行った。NBA6に光導電性化合物(DEH)を30wt%、電子捕捉剤(TNF)を1wt%混合し厚さ100μmのフィルム状測定用試料とした。この光導電性化合物DEHは非メソゲンであるので、30wt%もの量を混合した試料は、室温以上で液晶相を形成しない。したがって、フォトリフラクティブ効果の測定は等方相で行った


       
          


液晶性高分子とアモルファス高分子で比較を行った。NBA6とAc-NBA6の分子構造上の違いは主鎖部分だけである(図1)。メタクリレートとアクリレートという違いだけであるが、NBA6が液晶であるのに対して、Ac-NBA6はアモルファス高分子である。アモルファス高分子は光を散乱する液晶相を形成しないので、このほうがむしろ大きなフォトリフラクティブ効果を示すと予想される。しかし、実際に測定を行ってみると、アモルファス高分子ではNBA6の等方相で見られた様な大きなフォトリフラクティブ効果は見られなかった。液晶性のNBA6およびアモルファスのAc-NBA6とNBA3とで、印加電界を変化させて詳しい測定を行ってみると、図2の様な結果が得られた。DEH濃度はすべて30wt%であるので、これらはすべて光学的に等方な状態での測定結果である。この様に、液晶性高分子のフォトリフラクティブ特性は、等方相であるにもかかわらず、ほぼ同じ構造を有するアモルファス高分子よりも数倍大きくなるということが分かった。以上の結果から、液晶性高分子のフォトリフラクティブ効果は、液晶相よりも等方相のほうが大きくなるということと、液晶性高分子のフォトリフラクティブ効果は等方相であるにもかかわらず同様の構造のアモルファス高分子よりも大きいということが明らかとなった。

T. Sasaki, M. Goto, Y. Ishikawa and T. Yoshimi J. Phys. Chem. B, 103, 1925 (1999).


2.液晶性高分子でのフォトリフラクティブ増幅のメカニズム
 では、液晶性高分子の等方相でなぜフォトリフラクティブ特性が大きくなるのであろうか。液晶相は分子が配向しているので、導電性や電気光学効果などの性質は大きくなる。そして加熱して等方相にすると、分子の配向はばらばらになる。したがって、液晶性高分子のフォトリフラクティブ特性は温度の上昇によって試料が等方相になればアモルファス高分子と違いが無くなるはずである。NBA6のフォトリフラクティブ効果を温度を変化させて測定を行うと、回折効率はある温度までは増大し、その後温度の上昇とともに小さくなった。サンプルからの微弱な光散乱の温度依存性を測定すると、回折効率が最大値をとる温度までは弱い散乱光が見られるが、回折効率が小さくなる温度領域では散乱も小さくなっていくことが分った。光散乱は等方相中に存在する微小なドメインによって生じていると考えられる。NBA6の等方相でのフォトリフラクティブ効果の測定は、液晶相を過熱によって等方相にしているのではなく、液晶に非メソゲンの光導電性化合物を大量に混合することで等方相にしている。この様な等方相では、微視的には光導電性化合物の分布は均一ではなく、非常に小さな液晶ドメインがところどころに形成されていると考えられる。この微小ドメイン構造によってメソゲンの再配向やポッケルス効果が大きくなり得る。NBA6の液晶−等方相相転移温度以下の温度では、この微小な液晶ドメインが存在するためにフォトリフラクティブ効果が大きくなり、温度の上昇によって微小ドメインが消失するとフォトリフラクティブ効果も小さくなると考えられる。


3.フォトリフラクティブ効果のメモリー性
 シアノビフェニル系側鎖型高分子液晶にCDHを40%混合した試料のフォトリフラクティブ効果を測定すると、屈折率格子のメモリー性が認められた。CB6およびCB11での4光波混合実験でのプローブ光の回折光強度を測定すると、書き込み光を遮断した後も回折はゼロにはならず、ある程度の残存が見られた。この残存強度は、温度、CDHの量、印加電界強度等によって影響されるが、この場合では数時間ほどの寿命であった。このメモリー性は高分子主鎖とメソゲンを繋ぐスペーサー炭素数によって影響され、スペーサー炭素数が11以上のものでしかメモリー性は認められなかった。メモリー効果のメカニズムの詳細はまだ明らかではないが、スペーサーが長くメソゲンが内部電界に対して応答し易いことが必要ではないかと考えられる。Tgの低い高分子の分極構造は、クロモフォアの電界配向に起因しているため、外部電界が無くなれば熱運動によって消失する。CB12での屈折率格子のメモリーは内部電界によって生じた周期的なCBメソゲンの配向が高分子の粘性によって保持されるために生じていると考えられる。無機結晶のフォトリフラクティブ効果の研究においても、結晶格子が柔らかいものの場合では、内部電界によって結晶格子に歪みが生じ、記録材料として応用可能となることは報告されていた。しかし、内部電界による分子の状態変化が顕著である有機高分子のフォトリフラクティブ効果のメモリー性についての報告は現在までのところほとんど見られない。フォトリフラクティブ効果のメモリー性は応用上重要であり、今後の展開が期待される。

1)T. Sasaki, K. Tachibana, K. Ono, T. Shimada, M. Kudo, A. Katsuragi, T. Furuta Mol. Cryst. Liq. Cryst. 368, 345-350 (2001)
2)T. Sasaki, T. Shimada, K. Tachibana Chem. Lett., 324-325 (2002)


4.不斉部位を有する高分子液晶のフォトリフラクティブ効果
 不斉部位を有する液晶は、コレステリック相やSc*などの螺旋構造を持つ分子集合構造を形成し、条件によっては非対称な相構造を形成することがある。AZO*-8は(図1)液晶ガラス状態でポーリング処理を施さなくても、弱いながらも第二高調波発生(SHG)を示す。SHGは対称性を欠く分子集合体あるいは分極した高分子でしか見られない現象である。したがって、AZO*-8のフィルムは自発的に対称性の低い構造(ポッケルス効果を示す構造)を形成していると考えられる。等方相でのフォトリフラクティブ効果の増幅はミクロドメインによってもたらされていると考えられるため、不斉部位を有する液晶を用いた場合には、フォトリフラクティブ特性にも何らかの影響があると期待される。そこでフォトリフラクティブ特性における不斉部位の有無の影響を検討した。ネマチック相を形成するAZO-8と、AZO*-8とでフォトリフラクティブ特性の比較を行った。すると不斉炭素を有するAZO*-8では外部電界を印加しない状態でも不安定な2光波結合が生じるなど、特異的な現象が見られた。しかし、AZO*-8の場合では、不斉炭素による非対称構造形成の効果よりも、むしろ不斉炭素によるポリマー中の自由体積増大に伴うアゾベンゼン部位のE-Z光異性化反応の影響の方が大きく、不斉構造に起因する効果は明らかにはなっていない。

T. Sasaki, R. Kai, A. Sato, Y. Ishikawa and T. Yoshimi Mol. Cryat. Liq. Cryst. 373, 53-70. (2002)