Spontaneous polarization reorientation photorefractive effect

1.強誘電性液晶の自発分極ベクトル転向型フォトリフラクティブ効果

 佐々木研究室では、1998年頃から強誘電性液晶でのフォトリフラクティブ効果について報告を行っている。光導電性化合物と電荷発生剤をドープした強誘電性液晶中で、光の干渉によって内部電界を発生させ、それによって強誘電性液晶の分極変化を誘起するものである(図1)。ネマチック液晶などの再配向型フォトリフラクティブ効果が内部電界に分子の双極子モーメントが応答して生じているのに対して、強誘電性液晶のフォトリフラクティブ効果は自発分極というバルクの分極が内部電界に応答することになる。強誘電性液晶の自発分極の電界応答は非常に高速であるので、フォトリフラクティブ効果の応答の高速化が期待できる。

自発分極や粘性の異なる数種の強誘電性液晶(チッソ株式会社CSシリーズ)に光導電性化合物CDHと電荷捕捉剤TNFをドープした試料のBragg回折条件下での2光波結合利得定数を測定した(488nm Ar+レーザー)。強誘電性化合物に、光導電性化合物CDHを1wt%、電荷発生剤TNFを0.1wt%ドープし、セル厚10μmのITO電極付きガラスセル(E.H.C株式会社製)に注入したものを測定用サンプルとした。通常、強誘電性液晶を表面安定化状態にするには2〜5μm程度の薄いセルが必要であるが、この試料では10μmのセル中でも良好に表面安定化状態を形成した。測試料をSc*相を示す温度に保ち、0.1V/μmの電界を印加して測定を行った。2光波結合利得定数の温度依存性を測定した結果を図2に示す。46℃以上の温度では2光波結合は見られなかった。この試料の自発分極の温度依存性を三角波法で測定した結果を図3に示す。自発分極が消失する温度とフォトリフラクティブ効果が見られなくなる温度とが一致していることがわかる。つまり、強誘電性を示すSc*相の温度領域のみでフォトリフラクティブ効果が発現している。自発分極値や相転移温度の異なる数種類の強誘電性液晶で同様の測定を行ってみると、いずれの液晶でもフォトリフラクティブ効果は試料が強誘電性を示す温度範囲でのみ見られた。このことから、強誘電性液晶でのフォトリフラクティブ効果は個々の分子の双極子モーメントではなく、バルクの自発分極が内部電界に応答して生じていることがわかる。



1)T. Sasaki, Y. Kino, M. Shibata, N. Mizusaki, A. Katsuragi, Y. Ishikawa and T. Yoshimi Appl. Phys. Lett. 78, 4112 (2001).

2)T. Sasaki, A. Katsuragi, K. Ohno J. Phys. Chem. B, 106, 2520-2525 (2002)
3)T. Sasaki, A. Katsuragi, O. Mochizuki, Y. Nakazawa J. Phys. Chem. B, 107, 7659-7665 (2003).


2.強誘電性液晶/光導電性高分子混合物でのフォトリフラクティブ効果
 強誘電性液晶を用いれば、内部電界に対する応答速度を高めることができる。従って、内部電界の発生効率を上げればさらに高速な応答を達成することができると考えられる。液晶中に低分子の光導電性化合物を混合するよりも、高分子鎖に光導電性色素が密に結合したものを用いれば、電荷分離の過程が高効率化する可能性がある。そこで、光導電性のジフェニルヒドラジンを側鎖に有する高分子PDPHを用いた検討を行った。PDPHはスペーサー炭素鎖を介して光導電性色素が高分子主鎖に結合しているため、ポリビニルカルバゾールよりも液晶との相溶性が高いと考えられる。PDPHは強誘電性液晶CS1011に2wt%まで混合することができる。PDPHの混合量を増やしていくにつれて液晶相は乱され、光散乱も大きくなる。液晶の配向状態や光散乱を較べると、0.5wt%のものと2wt%のものでは大きな差がある。しかし、フォトリフラクティブ効果は、PDPHの混合量が多いほど利得定数は大きくなった。液晶相に欠陥が少なく、光散乱が小さいほど屈折率格子は明瞭に形成されるはずであるが、配向状態が乱れていてもPDPHの混合量が多いほうが利得定数は大きい。これは、干渉縞が明瞭になるという効果よりも、内部電界が大きくなることの効果の方が屈折率格子の形成に有利であることを示している。現在、様々な光導電性高分子と強誘電性液晶との混合物でフォトリフラクティブ効果の検討を行っている。

1)T. Sasaki, K. Ohno, Y. Nakazawa Macromolecules, 35, 4317-4321 (2002).
2)Y. Nakazawa, T. Sasaki Chem. Lett., 33, 242-243 (2004).