感光性ポリオレフィンスルホンに関する我々の論文J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem.
, 50, 1462-1468 (2012)がI論文誌のカバーに採用されました。

Phororeactive polyorefinesulfones
光吸収でモノマーに分解(解重合)する高分子

重合 →たくさんのモノマーが反応して結合し合って高分子になること
解重合→高分子が連鎖的にモノマーに分解すること

1.ポリオレフィンスルホン
 ポリオレフィンスルホン(図1)は,オレフィンモノマーを液化亜硫酸ガス(SO2)中でラジカル重合することで得られる高分子である。この方法で合成したポリオレフィンスルホンは,SO2とオレフィンの交互共重合体になっていることが特徴である。



2.光分解性ポリオレフィンスルホン
 我々は,光塩基発生基を組み込んだポリオレフィンスルホンが光の照射によって容易に解重合を生じることを報告した。ポリオレフィンスルホンの主鎖中のSO2基に隣接する炭素上の水素は,トリエチルアミンやピリジン等の塩基によって容易に引き抜かれる。この水素が引き抜かれると,連鎖的に解重合が進行し,高分子はオレフィンモノマーとSO2に転化する。執筆者らはこの性質に着目し,ポリオレフィンスルホンに光塩基発生剤を組み込めば,光照射によって解重合を示す高分子ができるのではないかと考えた。先ず,ポリオレフィンスルホンの側鎖に光吸収によってアミンを発生する色素を導入した高分子(図2(a))を合成した。



図2 光解重合ポリオレフィンスルホン

 側鎖部に導入した色素は200〜400 nmの光照射によって脱炭酸反応を生じ,アミンを発生する。この高分子のフィルムに254 nmの紫外線を照射したところ,露光部でオレフィンと2〜3量体程度のオリゴマーが生成することが確かめられた。光照射にともなう高分子の分解率(SO2基の消失率)は97 %以上であった。オレフィンへの転化率は50 %程度であった。分解率と転化率が一致しないのは,一本の高分子鎖から複数の水素が引き抜かれた場合に,解重合が停止するためである。
 高感度化には,塩基増殖型のポリオレフィンスルホンで対応できる。これは,光によって生じた微量の塩基を開始剤として,塩基濃度が非線形的に増大するシステムである。図2(b)に示す光塩基発生基と塩基増殖基を有する共重合体ANC2-Fmoc2では,900 mJ/cm2の照射エネルギーで分解率98%が達成された。また水洗浄によるパターン形成だけなら数十mJ/cm2で充分であった。塩基発生剤を適切に選択することで解像度の高いフォトレジスト材料の開発や,溶剤を使用せずに露光部分の除去が可能な新しいプロセス用材料開発への寄与が期待できる。


液化亜硫酸ガス中での重合


ポリスルホン光レジストでの画像形成

揮発性のオレフィンモノマーからなるポリオレフィンスルホンを用いれば、露光部が揮発して消失する面白い高分子フィルムができます。
揮発性ポリオレフィンスルホンの動画

1)H. Yaguchi, and T. Sasaki Chem. Lett. 35, 760-761 (2006).
2)佐々木健夫、松田實、高分子(高分子学会誌)7月号トピックス(2007)
3)H. Yaguchi, and T. Sasaki Macromolecules, 40, 9332-9338 (2007).
4)T. Sasaki, H. Yaguchi, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 47, 602-613 (2009)..
5)佐々木健夫、高分子の架橋と分解V (角岡正弘,白井正充 監修、CMC出版), 第8章4節 197-209 (2012).
6)T. Sasaki, T. Kondo, M. Noro, K. Saida, H. Yaguchi and Y. Naka、.J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 50, 1462-1468 (2012).