論文の引用について
研究者の業績を評価する指標の一つとして,論文の引用回数とい
うものがあります.これはどのようなものかというと,研究者があ
る論文Aを書いて雑誌に投稿した後,他の研究者が彼らの論文の中
で論文Aを参考文献の中で引用した回数です.この引用回数が多い
ほど,一般的に論文Aは研究者の間でよく認知され,先行研究とし
て研究者の間で読まれていると考えられます.そのため,引用回数
の多さは論文の質を表す尺度の一つとして使われています.
研究者の論文の引用回数を調べるのは簡単で,宇宙論,素粒子論
関連の論文ならば,ホームページ
http://www.slac.stanford.edu/spires/hep/
に行ってみてください.例えば私の過去の論文を調べるのであれば,
find a Shinji Tsujikawa
と入力します.''a''は''author''の略です.すると,過去の論文のリスト
が現れるはずです.''Cited ... times''の''...''の部分が各論文の引用回数で
す.これは最近の論文から順に現れるので,最新の論文ほど引用回数
がもちろん少ない傾向にあります.
ある研究者の過去の全ての論文の引用回数の概要を調べたい場合,
上のホームページ(著者を検索した後のページ)の''Browse Author''の
右横にある''Format''の中の''Citesummary''を選択します.すると,そ
れぞれの論文の引用回数に応じた分離がなされ,引用回数が50回以上
の論文についてはクリックができるようになっています.左側のコラ
ムは,出版されていないものも含む全ての論文についてのデータで,
右側のコラムは出版された論文についてのデータです.下の方にある
''Total eligible papers analyzed''の数字は,検索した著者の全論文数で
す.その下の''Total number of citations''というのが,その著者の論文
の全引用回数です.さらに下の''Averaged citations per paper''という
のは論文1本あたりの平均の引用回数です.
聞いたところでは,あらゆる分野の科学者のうち,全引用回数が
1000回に達するのは5%以下とのことです.たしかに論文を50本書いた
としても,1本あたり平均で20回以上引用されないと1000回には達しな
い訳ですから,これは簡単なことではありません.私が1000回に達した
のは,たしか2005年のときですから,1996年に早稲田の修士課程に入っ
てから9年かかったことになります.もっとも,非常に有名な研究者の
場合は全引用回数が10000回を優に超えます.宇宙論研究者の中で例を
挙げますと,2008年1月の段階で
Stephen Hawking:
全引用回数22140回,論文1本あたりの引用回数158回
Andrei Linde :
全引用回数20853回,論文1本あたりの引用回数115回
Paul Steinhardt
: 全引用回数14172回,論文1本あたりの引用回数124回
です.このように,宇宙論の分野を牽引してきた研究者は,論文1本あた
りの引用回数が100回を超えています.
もちろん,引用回数が研究者の業績の質を表す絶対的なものではあり
ません.その一方で,素粒子物理学者も含めた研究者の全引用回数のラ
ンクが
http://www.slac.stanford.edu/spires/play/authors/2004/top_all_rank.shtml
にあり,これを見ると1位のEdward Wittenを始めとして,上位に入って
いるのはいずれもこの業界で大きな仕事をした非常に有名な研究者ばかり
です.Wittenにいたっては,2008年1 月の段階で,出版された論文の全引
用回数が78169回で,論文1本あたりの引用回数は324回です.本当に良い
仕事をした研究者の論文は,それ以降多くの人に読まれ,その結果として
このような膨大な回数の引用をされていると言えるでしょう.
最近では,全引用回数と論文1本あたりの引用回数だけでなく,h-index
という指標も現れています.これはどういうものかというと,''ある研究
者が執筆した論文のうち,引用された回数がh以上あるものがh以上あるこ
とを満たすような数値''です.これで分かりにくければ,ある研究者の論文
を引用回数の多いものから順に番号づけをしていき,その番号が引用回数
以上となる数値です.例えば下の例で,括弧内を引用回数として,
研究者A: 論文1(10), 論文2(8), 論文3(5), 論文4(4), 論文5(3) →h-index=4
研究者B: 論文1(100), 論文2(50), 論文3(30), 論文4(3), 論文5(3) →h-index=3
となります.研究者Bのように数本の論文の引用回数が多くても,それな
りに論文の数がないとh-indexは高くなりません.つまり,h-indexが高い
研究者は一般的に論文数があり,キャリアがあります.ただし,たとえ論
文の数が多くてもそれぞれの論文の引用回数が低いとh-indexも低くなりま
す.極端な例として,100本論文を執筆したある研究者の全ての論文の引用
回数が1回とします.この場合のh-indexはお分かりのように1です.つまり,
h-indexを上げるには,論文数が多くても,各論文の引用回数がそれなりに
高くないといけない訳で,h-indexは論文の質を判定する目安ともなります.
このように,h-indexには研究者の論文の量と質がかなり反映されます.
どこかのホームページで, 大学教授となるにはh-indexが19以上がおよその
基準である,と読んだことがあります.これは分野にもよるので,一概には
言えませんが,たしかに20あたりが1つの目安かもしれません.h-indexは
さきほどのslacのホームページで簡単に調べることができます.ある研究者
について,Citesummaryで調べたときに下の方に出て来る
See alternative/experimental citation metrics
for this search
をクリックすると,いくつかのデータが出てきますが,そのうち''h:''という
欄の右にあるのがh-indexです.ちなみに,Edward Wittenのh-indexは137
です.