Research                           


当研究室は光合成の基本原理解明および光合成を利用したエネルギー創成と地球環境の改善について研究を行っています

現在の地球環境および生物の生活は光合成反応の上に成り立っている。

   27億年前に地球上に酸素発生型光合成生物(シアノバクテリア)が誕生して以来、大気中の酸素濃度が上昇し、生物は呼吸反応によってエネルギーを獲得できるようになった。また、原子力等の一部のエネルギーを除いたほとんど全てのエネルギーは光合成反応・産物由来であり、我々の体を構成している炭素も大本は光合成の二酸化炭素固定反応由来である。日本の光合成研究は、第二次世界大戦後の食料増産の必要性から、数多くの研究・解析が行われ、多大な発展を遂げてきた。光合成の最大の特徴は光を用いて、酸化還元電位勾配に逆らった電荷分離を行うことにあり、この反応を光合成光化学系反応と呼ぶ。光合成光化学系研究は、日本の学術における注目研究領域であり、日本のコアペーパーのシェアは世界で19%と高い位置を占めている。光合成光化学系反応の普遍的原理を解明するためには、より純化された光化学系標品の単離精製による分子・原子レベルでの解析が必須であり、生化学的手法の必要性は以前にも増して高くなっていると考えられる。
当研究室では、新規色素、タンパク質を含む藻類などの光合成生物から純化された光化学系標品を生化学的に単離し、酸素発生系のメカニズムを物理化学的に明らかにすることにより光合成の普遍的な原理を明らかにしたいと考えている。
 
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光合成反応に新しい光を用いる!

地球上に降り注ぐ太陽光のスペクトルは下図のようであり可視に極大を持つ。これは可視光を吸収する光合成色素のクロロフィルaのスペクトルとよく一致している。これは光合成生物が可視光を利用できるように進化してきたためである。

光合成の特徴はエネルギー勾配に逆らった電荷分離にあるが、これまでこの反応を担っているのはクロロフィルaのみであった。
しかし、当研究室において近赤外に吸収極大を持つクロロフィルdが電荷分離を担えることを明らかにし、その低いエネルギーを利用する機構を明らかにした(2007、2010、2011年に米国科学アカデミー紀要および新聞14紙に発表)。
今後、更に低エネルギーの人の目にはみえない光を利用して行える光合成反応の創成を目指している。
 
光合成の高効率のエネルギー移動、電子移動反応を利用したエネルギー変換素子の開発
光合成の初期過程(チラコイド膜上で行われる光化学反応)はその量子収率が100%に近い非常に優れた反応である。光合成は30億年近い進化の過程で反応を最適化しており、人工のシステムはこのような高効率の反応は未だ獲得できていない。光合成の電子伝達反応は絶縁体のタンパク質の中に電子伝達成分が埋め込まれて営まれる、単一電子移動反応である。よく知られた、半導体などの電子移動は数10万単位で電子が移動するが、光合成の単一電子移動反応を人工光合成等の反応に応用すると省電力化・装置の極小化が可能になる。半導体開発の「ムーアの法則」は限界に近づいており、これを打破すべく意味でも高効率の光合成反応を利用したエネルギー変換素子の開発は急務であり、当研究室では光化学系タンパク質と新素材とを組合わせることにより、電子を取り出す研究を行っている。

 
光合成水分解反応を明らかに!
2011年に岡山大学の沈らにより、光合成光化学系IIの構造が1.9Åの分解能で明らかにされ、雑誌Scienceが選ぶ、2011年の科学10大ニュース選出された。光合成反応が水を分解して創り出す酸素は、我々の呼吸に使われる重要な物質で有り、地球環境を支えてきた。

下の図は、水を分解を担う、光化学系IIのMn4CaO5クラスター。

UmenaらのNature(2011)の論文図を改変 (X線結晶構造解析ではHはまず見えないのでH2OのO分子だけ表示されている)
 
水分解反応は4つの閃光照射で進行し、2分子のH2Oより1分子のO2が発生する。
この機構は完全解明されておらず、光合成水分解反応を知る上で最も重要な課題である。
当研究室では種々の藻類より光化学系IIを生化学的に単離精製し、物理化学的解析によりこの機構の解明を行う。これは、人類にとってもっともインパクトの高い研究の一つである。
 
 
その他、光合成を利用した新規エネルギー変換の創生や、地球環境を維持・改善するための光合成研究を行っています。
卒業研究や大学院・ポスドクなど当研究に興味のある人はメールあるいは研究室まで訪ねてきてください。