医療分野の研究(東京慈恵会医科大学共同研究)

1.浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術に関するCFDを用いた血流解析

Blood Flow Analysis of STA-MCA Anastomosis Using CFD

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 日本人の死因順位第4位として知られる脳血管疾患の中で、最も死亡率が高いとされているのが脳梗塞です。脳梗塞の外科的治療法の一つに、脳血管バイパス術があります。しかしながら、現在の日本ではその有用性に関する一定の見解が得られず、議論が続けられているところです。本研究では、脳血管バイパス術の一つである、浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術(STA-MCAバイパス術)に注目しています。これは頭皮を栄養する動脈であるSTAを、脳内血管であるMCAに繋ぐ(吻合する)手術です。撮影された医療画像から患者ごとの血管内腔形状を再現し、STA-MCAバイパス術を施行された患者の脳血管内を流れる血流を数値計算することで術前および術後における血行動態の変化を探ります。将来的には術前CFD解析を行うことにより、施術前に最適な手術条件の検討を可能とすることを目指します。

2.CFD解析によるコイル塞栓術後の脳動脈瘤再開通要因に関する研究

Investigation on Risk Facors for Cerebral Aneurysm Recanalization

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 日本人の主な死因の1つである脳血管疾患に脳動脈瘤と呼ばれる病気があります。脳動脈瘤は破裂するとくも膜下出血を来たす可能性があります。くも膜下出血は発症者の約3割がその場で亡くなるという危険な病気です。故に、動脈瘤が発見された場合には未破裂の状態で処置される必要があります。 近年、未破裂脳動脈瘤の治療にはコイル塞栓術が広く執り行われています。コイル塞栓術とは、カテーテルを用いて動脈瘤内にコイルを留置し、血栓化させることで瘤内への血液侵入を防ぐ術式です。この術式は、開頭を行うクリッピング術と比較して低浸襲 (身体的負担が少ない)というメリットがある一方で、留置したコイルが動脈瘤内で圧縮され小さくなるコイルコンパクションや、動脈瘤の成長などによって瘤内へと再び血液が流れ込み、再手術を余儀なくされるケースが少なからず認められています。このような現象を再開通と呼び、コイル塞栓術という術式が故に発生し得る現象として課題となっています。現状では、再開通発生の正確なメカニズムが解明されておらず、医師の主観的判断によりコイル充填方法が決定されており、客観的な判断基準の確立が求められています。 本研究ではデジタル・サブトラクション血管造影法 (DSA)による血管造影画像、及びコイルの画像を用いることで、血管系における流れを数値流体力学により再現します。再開通発生要因の解明、及び再開通を防ぐのに有効な治療時における具体的な指標の提唱を目的とした研究です。

3.脳動脈瘤の成長因子の特定

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 脳動脈瘤は血流の影響によって徐々に成長するとともに、脳動脈瘤の壁に薄い部分 (菲薄部)が生じ、その部分から破裂する可能性が指摘されています。脳動脈瘤が成長し、菲薄部が生じる原因には、例えば血流によって瘤壁が強く引っ張られたり、壁のある一点に血液が集中して衝突することで、壁に負荷がかかることなどが考えられます。脳動脈瘤の成長に関係する因子を特定し、菲薄部の特定が可能となれば、脳動脈瘤が破裂する前に治療を行うことが可能となるばかりでなく、コイル塞栓術時における術中破裂のリスクを減らすことにも繋がります。我々は脳動脈瘤内の血流を、CFDを用いて解析することで、脳動脈瘤の成長因子と菲薄部の特定を行い、手術適応の症例を見極めたより安全な脳動脈瘤治療の実現を目指します。

4.脳動脈瘤の破裂予測

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 くも膜下出血は発症者の約3割がその場で死亡し、死亡を免れた場合でも重篤な後遺症を残したり、寝たきりとなってしまうことの多い非常に危険な病気です。脳動脈瘤の破裂はこのようなくも膜下出血を引き起こす可能性があります。脳動脈瘤とは、脳血管の壁面が膨らむことで袋状になる脳血管疾患の一種で、近年では脳ドックの普及や血管撮影法などの発達により未破裂脳動脈瘤の早期発見が可能となっています。未破裂動脈瘤の破裂を防ぐための手術には開頭手術によるクリッピング術や体への身体的な負担の少ない (低侵襲)コイル塞栓術などが必要ですが、共に患者さんにとってリスクや費用負担、精神的な負担が大きなものとなります。さらに脳動脈瘤は全てが破裂するとは限らず、その破裂率は約1%といわれていることもあり、手術に踏み切れない患者さんも多くいます。手術の判断については、ほとんどが医師の経験により下されているのが現状です。そこで、動脈瘤の破裂予測を数値的に評価することができれば脳動脈瘤に悩む多くの患者さんを救うことが可能となります。本研究ではCFDを用いて脳動脈内の血流を解析することで、脳動脈瘤の破裂に関与する因子を調査するとともに、脳動脈瘤の破裂予測を行うことを目的としています。

5.脳動脈瘤のFlow Diverter ステントを使用した治療に関する数値的研究

 近年、脳血管疾患である脳動脈瘤に対し、脳動脈瘤の頚部にFlow Diverterというステントを置くことで、血液の流れを変え、動脈瘤内への血流を妨げ、血栓化を起こす治療法が行われています。しかし、この治療法に関して、どのようなステントを使用すれば最善の治療になるかは明らかになっておらず、治療後に瘤が破裂し亡くなった患者が報告されています。私は慈恵医大病院の脳神経外科との共同研究で、患者個有の脳動脈瘤形状を使用した流体解析、およびステントに対する構造解析を行うことで、ステントの血流に対する影響や構造力学的特性を評価しています。それにより、ステントの留置による血流動態の変化とその危険性を明らかにすること、患者個人に対するステント治療の術前評価、および患者個人に対して最適なFDの選択を可能にすることを目的としています。