• 2008年度のテーマ

    • NJL模型による真空の結晶構造の研究 (松島、遊佐)
      私たちが真空と呼んでいる空間は、場の理論的にはからっぽの世界ではなく素粒子が複雑に 相互作用をしている世界です。南部氏が提案したカイラル対称性の自発的破れのメカニズムに より素粒子クォークは質量を持つことができます。その考えに従えば、クォークと 反クォークが対となって形成する「カイラル凝縮体」が我々の真空を満たしていることに よりクォークは質量を持ちます。 このカイラル凝縮した状態はエネルギー的に安定であり、我々の世界の真空を構成しています。 いわゆる素粒子(我々自身も含めて)はこのような真空の上に存在しています。

      通常、このような凝縮体の分布は空間的に一様で座標によらないと考えられてきましたが、 ある条件 の元─この場合は温度や密度─では実は一様でない結晶化した状態(別な言葉で言えば 密度波が存在した状態)の方がエネルギー 的に安定になることがわかってきました。そのような状態についてNambu and Jona-Lasinio 模型を用いて解析を行います。カイラル凝縮体が周期的に結晶化した状態の方がエネルギー的に 安定になるのはどんな条件の場合かについて明らかにします。

    • 線形シグマ模型によるQCD相転移の臨界点およびその実験的検出についての研究 (辻、櫻井)
      我々の世界は原子核で構成されていますが、温度/密度が非常に高くなれば相転移を起こしてクォークとグルーオンのプラズマ状態に移ります。これがQCD相転移と呼ばれる現象ですが、 例えば宇宙初期には高温から低温への相転移が起ったと考えられ、現在RHICあるいはLHCと呼ばれる実験室で再現しようとされています。

      相転移の現象は統計力学的には非常に興味深く、その性質は1次、2次、cross overなどに分類されます。 特にQCDの場合は、ある温度、密度で(三重)臨界点と呼ばれる点が存在することが予言されます。 この点は1次相転移とcross overの境目の点であり、統計力学からその点付近で揺らぎの相関が発散します。 現在その点を特定する実験が計画されていますし、一方でこのようなクォーク物質の相構造を理論的に解析することは大変興味深いことです。あるいは宇宙初期の相転移について関係するかもしれません。 この研究ではまず臨界点の存在を線形シグマ模型を用いて評価した後、 その点の近傍では実験観測量にどのような影響を与えるか─具体的には粒子発生の揺らぎなど─を計算し予言を行います。

    • 中性子星から予想される「超核力」存在の妥当性 (佐竹、杉森)
      中性子星は燃え尽きた質量の大きい恒星が最終的に到達する姿であり、白色矮星よりも小さく太陽質量の2倍程度のものがわずか半径10キロ程度の球体に詰まっている非常に密度の高い状態です。このような星は宇宙に無数にあり、パルサーなどとして観測されます。

      このような質量の大きい星は当然重力で収縮しようとしますが、それを内側から支えているのは中性子同士の間の反発力です(ここで陽子や電子は登場しないのは電荷を持っているため、 エネルギー的に損をするからです)。この二つの力が釣り合う場合にのみ、中性子星は存在できます。 つまりマクロな中性子星という天体の質量や半径を決めるのは、ミクロな中性子間の力(核力という)であり、我々が素粒子/原子核の加速器実験を通して決定した中性子の核力を用いると、 中性子星の性質が予言できることになります。 実際、現在知られている核力の知識と中性子星の観測は矛盾していません。

      一方最近の原子核の実験から、ストレンジ量子数を持つ原子核系では今まで予想されていなかったほど強い核力(超核力と呼ぶ)が存在する可能性が指摘されました。 ストレンジというのはK中間子、ラムダ、シグマなどの素粒子が持っている量子数で、これらが中性子に混じって中性子星内に存在すると、超核力が中性子星の性質を変えてしまう可能性があります。 ここでは超核力の存在を仮定して中性子星の質量/半径などを計算し、それらが観測値と矛盾しないか検討して、果たして超核力の仮定が妥当なのか議論します。

    • 初期宇宙相転移による宇宙背景輻射の揺らぎ(永田、村田)
      現在の宇宙は等方的で一様、曲率が0と考えられます。 これらの観測的な証拠は例えば宇宙背景輻射─宇宙が3Kの電磁波 で一様に満たされていること─です。このような一様性を実現する初期宇宙の模型がインフレー ション理論です。インフレーションは宇宙初期に起った相転移現象ですが、急激な宇宙の膨張を 引き起こし現在の一様な宇宙を実現したと考えられています。

      この急激な膨張は極めて宇宙が小さかったときに起こったはずなので量子的な効果を無視するこ とはできません。 量子力学的な効果は古典的な期待値からの「揺らぎ」が0でないことを予言します。 実際背景輻射はほとんど一様ですが、わずかに揺らいでいることが観測されノーベル賞を受賞 しました。この揺らぎは宇宙初期インフレーション時に形成され、その影響が現在の宇宙に 残っていると考えられます。つまり揺らぎを知ることにより、インフレーションの詳細について 知ることができます。 背景輻射で観測されるパワースペクトルから、インフレーションに関するどのような情報が 引き出せるかを議論します。


    Back to HOME page