• 2010年度のテーマ

    • Holographic description of QCD(小川、鈴木)
      量子色力学は強い相互作用を記述する基礎理論で、クォークを自由度とするSU(3)非可換ゲージ理論である。この理論は摂動論が使えないという特有な難点を持ち、今日でも直接取り扱うことが難しい。最近4次元の強結合のゲージ理論は5次元の重力理論(古典論)によって記述できるという新しい可能性が指摘され、多方面から研究されている。 
      本研究では4次元のQCDを記述するような曲がった空間での5次元の古典力学をSon-Stepahnovの方法を用いて構築する。この有効理論はクォーク質量やカイラル凝縮などいくつかのパラメータを含んでいる。境界上で4次元理論とのマッチングを考慮すると5次元古典論で4次元の物理量が予言可能となる。ここではメソンの質量や崩壊定数を計算する。またバリオンの物理量に関しても議論する。
    • (1+1)dim. relativistic field theory with Bethe ansatz (佐藤、村田)
      近年1次元系は現実の実験が可能となり様々な解析が進んでいる。一方理論側では3次元を考える場合の近似となるため、特にハドロン物理の世界ではQGP生成実験で発生する強磁場中の力学は1次元で近似しうると考えられている。 そのような物理を記述するため、ここでは昔から研究されている1+1次元のGross-Neveu模型を用いる。この模型はフェルミオンに質量が生まれるメカニズムを記述する一方で、漸近的自由の性質も満足している。 またポリアセチレンなどある種の物性系を記述する模型であることも知られている。 
      この種のモデルの解析には場の理論、繰り込み、あるいは平均場近似と呼ばれる方法が用いられる。 ここではかってBetheが提案し、今もってその基礎づけがよく分かっていない、 Bethe ansatzを用いて解析を行う。この方法ではBethe波動関数の形を仮定すると、多体系の量子力学が解けてしまうという奇妙で驚くべき方法である。この方法を用いて有限密度温度系の相図を解析する。
    • Crystalline Phases of Chiral Condensate at finite density (岩田、田浦)
      我々の世界の真空は単なる空っぽな空間ではない。南部とJona-Lasinioにより示されたように、真空にクォーク反クォークの対が凝縮(これをカイラル凝縮という)することでカイラル対称性が自発的に破れ、素粒子クォークは質量を持つようになる。このメカニズムは物体が質量を持つメカニズムに関係する非常に重要なものである。(粒子が対を作って凝縮するというアイデアは、超伝導におけるBCS理論と類似なものである。)またこの現象は量子色力学(QCD)の結合力が非常に強いために起る非摂動的(non-perturbative)な効果で、強い相互作用をする物理系に特有なものである。

      この真空に様々な物質が存在し、物質密度が高くなってくると不思議な現象が起ると予想される。 真空中ではカイラル凝縮は位置座標に依存せず一様である。 しかし物質密度がある程度増えると、一様な凝縮を起こすよりは空間座標に周期的に依存した凝縮、つまり結晶構造をした凝縮を起こした方がエネルギー的に低くなる可能性が指摘されている。このような事情は超伝導体にも共通なことでLOFF状態と呼ばれており、実際に外場を加えた超伝導体ではLOFF状態の存在が実験的に観測されている。ここでNambu and Jona-Lasinio modelを用いてこの現象の解析を行う。

    • Neutron Star Structure with Super-fluid matter (筒井、醍醐)
      中性子星は燃え尽きた質量の大きい恒星が最終的に到達する姿であり、白色矮星よりも小さく太陽質量の2倍程度のものがわずか半径10キロ程度の球体に詰まっている非常に密度の高い状態である。このような星は宇宙に無数にあり、パルサーなどとして観測される。

      このような質量の大きい星は当然重力で収縮しようとするが、それを内側から支えているのは中性子同士の間の反発力である(ここで陽子や電子は登場しないのは電荷を持っているため、 エネルギー的に損をするからです)。この二つの力が釣り合う場合にのみ、中性子星は存在可能である。 つまりマクロな中性子星という天体の質量や半径を決めるのは、ミクロな中性子間の力(核力という)であり、我々が素粒子/原子核の加速器散乱実験を通して決定した中性子の核力を用いると、 中性子星の性質が予言できることになる。 実際、現在知られている核力の知識と中性子星の観測はある程度の任意性の範囲内で矛盾しない。

      しかしある程度以上高いフェルミオン物質は超流動状態に相転移すると予想され、中性子星内でも超流動性を考慮して計算を行う必要がある。 回転する超流動体の扱いは難しいが、ここでは粒子法を用い数値計算を行うことで、そのような構造が中性子星にどのような影響を与えるかの理解を目指す。

    • QCD phase transion by Steller-collapse(高尾、中込)
      我々の世界は高温/高密度の状態では相転移を起こし自由なクォーク/グルーオンの世界が出現すると考えられている。宇宙初期に存在したであろうこの相転移をQCD相転移という。実験的にこの現象を確かめる方法としては、途方もないエネルギーで原子核同士を衝突させ超高温状態を作り出すことであり、現在もLHCやRHICで行われている。

      当然のことながらこのような実験は非常に難しいが、宇宙に目を向けると同種の現象が期待される場面がいくつかある。 初期の宇宙はこの現象が起ったはずだが再現可能ではない。本研究で注目するのは重力崩壊を起こしてブラックホールに変わる途中の天体現象である。重い恒星が燃え尽きると重力崩壊を始めるが、結果として重力崩壊型超新星爆発を起こすか、そのままブラックホールになるかの道をたどる。 その際内部の核物質非常に高密度高温状態を通るためQCD相転移を必ず起こすと期待される。 超新星爆発などの天体現象でエネルギーを伝えるのはニュートリノであり、爆発の99%のエネルギーはニュートリノが持ち去る。 相転移によりニュートリノ伝搬に特異なシグナルが現れれば、QCD相転移を天体観測の中に見つけることが期待できる。 この研究では物質中でのニュートリノ伝搬をしらべ、QCD相転移によりどのような影響を受けるか明らかにする。具体的には線形シグマ模型を用いて計算を行う。


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