3.倍々地獄


 麻雀は役の数に応じて得点が倍々になるゲームである。が、どこまでも増えるというのではなく、満貫という形で一応の上限が決められている。ここでいう倍々地獄とは、恐ろしく高い手というのではなく、私が目撃した(というとまるで傍観者のようだが)ある半荘での出来事のことである。
 その半荘は私が起家で、下家がSa、対面がN、上家がSuであった。悲劇の主人公はNその人である。この日は自模上がりが多かった。まず東の1局はSaが自模上がり、2千、千。次の東の2局はSuが2千点をNから上がった。これがこの半荘唯一の出上がりであったが、後で分かるとおりSuにとっては貴重な上がりであった。
 場が大きく動いたのは東の3局。Suが満貫を自模り、一気にトップに立った。満貫を上がったSuが親になり、東の4局が始まると今度はSaの自模に力が入り始めた。そして12,3巡目であろうか。興奮したように「ツモッた」と叫び、北を卓に叩き付けた。小四喜である。場は一挙に大荒れの様相を呈してきた。
 そしてこの日のクライマックス。再び巡ってきた親で、ド沈みといったら狙うのはあれしかない。おあつらえ向きの配牌と自模で最後は西を引き上がった。親の国士無双で1万6千点オール。Saを逆転すると同時にNがトンで大荒れの半荘が終了した。
 Nの立場に立って半荘を振り返ってみよう。はじめに千、二千の千点が出ていき、それ以後、2千点(Suに振り込み)、4千点(Suの満貫)、8千点(Saの役満)と取られ、最後に1万6千点(国士無双)でトビとなった。まさしく倍々地獄。役満が2つも出る大荒れの場であったが、Suは辛くもトビを免れた。東の2局目に上がった2千点がなければきれいに点棒が無くなっていたところである。
 最後に後日談。Saはこの日を境に決して私と卓を囲もうとはしなかった。考えてみれば、せっかく小四喜を上がったのにトップが取れなかったのであるから、よほどショックであったのだろう。一度、このあたりのことを本人に確かめてみたい気がする。


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