東京理科大学 理学部第一部化学科 築山研究室

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キャビティーリングダウン分光法を用いた研究

星間空間における分子種の解明

星間空間には希薄な分子雲が存在しており、その中の分子による可視光領域の吸収線 Diffuse Interstellar Bands (DIBs)が観測されている。最初の発見(1922年)以来 90 年以上が経過し、現在 600 本程度が検出されている。その起源となる分子は、宇宙の化学進化のひとつの段階を示す“大きな有機物星間分子”であると考えられるが、未だにフラーレンカチオン以外には同定されていない。そこで当研究室では、光強度の減少がほとんど見られない低濃度試料でも測定が可能なキャビティーリングダウン分光法(Cavity Ring Down Spectoroscopy: CRDS)を用いて分子の吸収スペクトルを得る。 その得られたスペクトルとの比較によって、DIBs の更なる同定を目指している。

図1 Diffuse Interstellar Bands (DIBs) 図2 CRDS装置の略図

CRDSとは

キャビティーリングダウン分光法とは、高感度、高分解能の吸収分光法である。感度は常に分光法の重要な課題であり、高感度で測定するには、光路長が長いことが理想条件の1つである。CRDS では、2枚の高反射率のミラー間で、レーザーのパルス光を多重反射することで閉じ込め、光路長を伸ばし、高感度測定を実現している。現在では、CRDSは星間化学・環境化学等の分野でも、広く利用されている。


図3 CRDS原理

DIBs候補分子フェノキシラジカル及びチオフェノキシラジカルの検証

直線炭素鎖分子や多環芳香族化合物は、DIBsの有力な候補として挙げられている。また、現在までに酸素や硫黄を含んだ星間分子が多く発見されていることから、これらの元素を含むフェノキシラジカルとチオフェノキシラジカルに注目した。ラジカルの生成にはホロカソード放電を用い、電子遷移スペクトルはCRDSを用いて得た。得られた結果から推測される低温でのスペクトルとDIBsの比較を行ったところ、フェノキシラジカルとチオフェノキシラジカルはDIBsから除外することに成功した。

図4 キャビティー部と放電部 図5 CRDS装置での放電発光
図6 チオフェノキシラジカルとDIBsの比較

CRDSを用いたC5Nの高分解能スペクトル測定

これまで高分解能分光研究において直線炭素鎖分子は、アセチレンなどの短い直線構造を持つ分子の結合によって生成されていた。今回、CRDS を用いて 581 nm 帯の分光測定を行った。すると、芳香族分子であるベンゾニトリルの放電により、直線炭素鎖分子 HC5N+ のスペクトルを確認することができた(図7)。大きな分子からの直線炭素鎖分子の生成はきわめて異例である。HC5N+ の生成量に対するヘリウムの圧力と放電電圧の依存性の検証を行い、実験系内におけるHC5N+の生成の最適生成条件を決定した。また、量子化学計算を用いてC5Nの吸収スペクトルの予想を行った(図8)。今後は C5N の予想スペクトルをもとに、最適生成条件下で C5N の吸収スペクトルの測定を行う。

図7 HC5N+のスペクトル 図8 C5Nの予測スペクトル