9604- ロサンゼルス  
 

僕たちは空港ターミナルビルを出て巨大な構内を巡回するバスに乗った.3つほどすぎたストップで降りてパーキングへと向かい,レンタカーのオフィスの女性と軽口をかわしながら車を選んでハリウッドへのドライブを始めた. ハイウェイから眺めるロスアンゼルスが砂漠の風景に重なって見える.スパニッシュのコロニアル風やリージョナルスタイルの建築が視界に広がっている.サボテンは少量の水でも生きていける植物で,乾いた土埃とこのうえなく澄み切った空のブルーがよく似合う.そんなものがあるかどうか知らないけれど,サボテンのプランテーションのような都市だなと僕は思った.乾いた広く明るい自然がヴァーチャルな空想を誘うのである. ディズニーの系譜をひくベンチャービジネスとヴァーチャル・リアリティのアミューズメント施設を共同開発するために,僕はかの地を訪れた.ここに華開いた映画文化と民生化した航空宇宙産業のハイテクノロジーをエンターテインメント施設のデザイン・システムとして組上げるのがメインの仕事だったけれども,むしろハリウッドでのランチがいちばん印象に残っている.ケビン・コスナーが向こうのテーブルで友だちと話をしている.そんなレストランで以前MGMの社長をしていたベンチャーのボスが僕にたずねた.「どうして英語ができるんだ?」 これにはちょっと驚いた.日本では英語を子供の時から勉強するとか何とか説明したけれども,彼はとても不思議そうな顔をしていた.年輩のアメリカ人は案外日本あるいはアジアのことを知らないのかもしれない.若いアジアの人間がウェストコーストではたくさん活躍しているのに,彼らの日常ではそうしたことは意識にものぼらないのだろうか.いずれにしても,彼にとっては軽いカルチャーショックだったようだ. 小さなリアルな接触から何かが伝わっていく.ヴァーチャル・リアリティでは伝わりようのないものがこの世にはある.