9605- 埋立地 | ||
埋め立て地に建設されるニュータウンの街区を設計したことがある. 平坦な土地が限られている日本では,長年,建設の土砂をはじめとする廃棄物で埋め立てを行ってきた.産業の成長にともなって海岸線は人工的に加工され,自然海岸線がとても少なくなってしまった.その結果,海際は産業施設が立ち並んで,僕たちが暮らす都市から海が遠ざかり都市の生活と水の環境が分離された.たとえば,羽田空港への玄関である浜松町(東京)には,現在,浜も松もない.ここがついこのあいだまで漁師町だったことを知っている人がどれだけいるだろうか.江戸の昔に日本の都市は海運や漁業がとても発達していて,町と水路や港は切っても切れない縁だったのに.江戸はベネチアやバンコクやハノイと同じように水の都だったのである.埋め立て地にニュータウンをつくるのならば,現代のテクノロジーを総動員して「新しいタイプの水の都」をデザインしたいものだ.人工環境としての都市と自然のダイナミックなバランスを背景とする美しく快適な都市をつくることができるのではないか,と僕は考えた. しかし,現実につくられた埋め立て地の住宅地には,海浜ならではの住み方や都市空間の提案を見ることはできない.19世紀ヨーロッパの都市形態を模した不可思議な町ができていて訪れる人を驚かせているけれども,僕の思いとは違って,海と関わりのある生活空間の提案が実行されることはなかった.陸地である通常の市街地に適用される制度にもとづいて機能的にプロジェクトが組み立てられているためである.残念なことだ. これからの都市は人工と自然が,機能と生活が,渾然としたものがいい.この人工の街に自然と生活の息吹が感じられるようになるまでまだかなりの時間がかかりそうだけれども,赤提灯もゲームセンターもいずれ人びとが欲しがるようになるに違いない.海を見ながらの屋台村やパチンコなんてとてもシャレている.そんな新しいタイプの建築の設計こそしてみたいものである.アジアの都市にはそういう景色がよく似合うと思うから. |
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