9606- 設計図  
 

建築家は設計図を作成して建築をつくっていく.そうした仕事をずっとしていると図面をひとめ見ただけでその設計がよくできているか,まだ検討の余地があるかわかるようになる.将棋や碁の局面を見るように図柄として設計図がみえていくるのである.
「都市の設計図」があるとすれば,それはどのような図柄になっているのだろうか.都市はひとりの設計者がデザインするようなものではなく,無数のひとびとが参加して織りなされる複雑で多様な空間である.具体的なものを図面にするだけでもいろいろな模様の図柄を描くことができて面白いと思う.
都市の航空写真を見ると道路のパターンや建築の並び方がいろいろな模様に見える.地下鉄のように地上に現われないものも地図におとしてその図柄をみると意外なつながりがあって新鮮な目で街をみることができる.高圧線を支える送電塔や電信柱を地図にプロットして電気が供給される様子を描いた図面も興味深い.給水,排水の経路,通信経路を描いて見ても新たな発見があるはずだ.電波塔を都市図にプロットして電波の道を描いた図面は,僕たちが普段意識している都市空間とは違った姿をしていてハッとさせられる.もし空中を飛んでいる電波が目に見えたら,都市はどのように見えるのだろうか.「都市の設計図」は,綺麗な模様のこうしたひとつひとつの図面が合成されて描かれるにちがいない.図柄として見るとそれは複雑で幾何学的で美しく絡み合って重なり織り成されて見えるのではないかなどと,僕は想像している.水を飲みシャワーを浴び,電気を使いテレビを見て,電話をかけ,車に乗って都市に暮らす僕たちは「都市の設計図」の中でどのように動いているのだろうか.エレクトロニクスで制御されるコンピュータ・ゲームの場面を冒険する主人公のように僕たちは都市で暮らしているといえるかもしれない.
建築家は実際に建築物をつくるだけでなく,ゲームの場面に新しい図柄を重ねて描いているのである.