9607- としまえん | ||
子供のとき,豊島園に住んでいた.豊島園に住んでいたといっても遊園地のなかに住んでいたのではない.豊島園に隣接する町に住んでいたのである. 豊島園はまわりの町よりもずっと広くて,当時,東京23区内にあるいちばん大きな遊園地だった.お化け屋敷やウォーターシュートやびっくりハウスなど遊ぶ施設がたくさんあって,古城レストラン,とかゴルフ練習場とかなんでもある不思議なところだった.ウォーターシュートというのは池に向かって滑り落ちていくボートのことで,お兄さんが舳先にたっていて水につっこむ瞬間にジャンプする.古城レストランというのは,昔豪族だか武士の城があった跡ということだけれど,どういうわけか西洋風のお城を模した建物がたっていた.わけがわからないけれど,子供にはそれでとても楽しい.ヨーロッパからもってきた大きなメリーゴーランドをいれたのも,いわゆる絶叫マシンを始めたのもとても早い時期で,豊島園は時代の先駆けだったのである. 園のなかには川が流れ,春には桜が咲きほこる.夏には流れるプールにたくさんのひとがやって来る.いつの頃からか花火大会が恒例の行事になって,夏の週末の夜は付近の道路は大渋滞. 豊島園は住宅地にとってまったくの異世界で子供は塀やフェンスのむこうの世界に胸をときめかせたものだった.周囲が4キロメートルもあるから裏手の塀やフェンスにはあちこちに子供であれば通り抜けることのできるアナが空いていた.時代のせいもあるだろうけれど,のんびりしたもので,近所の子供たちは豊島園に自由に出入りをしていた.町は駐留アメリカ軍の広大な住宅地も接していて,子供たちはこちらも自由に行き来する.MPというライフルをもった警備員に追いかけられながらも,アメリカ人の子供たちと野球をして遊んだものだ. 日常と隣りあう異世界がその町にはあった.エンターテインメントや冒険は日常のオマケにあるのではなく,日常と共にあると思うようになったのはそのせいかも知れない. |
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