9612- 郊外でおきていること  
 

日本中に高速道路が張り巡らされて,いまではどこの都市の郊外にもインターチェンジがある.インターチェンジの近くには,ガスステーション,ファミリーレストラン,ショッピングセンター,大型量販店やパワーセンター,カーディーラー,そしてパチンコパーラーがたち並んでいる.田園風景に似つかわしいとはいえない真新しい道路や電柱やガードレール,大きな看板や古く荒れはてたドライブインもときおりあって,新しいものと古いもの,自然と人工物がちぐはぐに渾然としている.そうした景色の中でしばしばパチンコパーラーはひときわ目立つ存在で,大型のタワーや空にかかる虹のようなネオンが大振りなかたちで辺りを圧倒している.車の中からも遠くからも目立つように考えられたデザインである.
でも,よく考えるとこうした目立ちたがりのデザインが,1990年代後半の現在,ほんとうにお客さんたちの目に止まっているかというとそうとはいえない.郊外ならばどこにでもある景色というものは,まさにどこにでもある景色であるために僕たちの意識からは遠のいているのである.つまり,あまりに普通すぎて意識していない.それにほんとうのことをいうと最近では,趣味の良くないデザインや化粧で飾りたてているそうした郊外の景色には皆あきあきしていて,何とかならないかと思っているのである.
実は,大きさや色やかたちで勝負するそうしたタイプのデザインは,建築デザインの新しい傾向からするならばすでに古いものになってしまっている.情報化社会では,建築物自体が目立って存在を主張するよりも,他所では見られないような空間や環境への考え方がネットワークやメディアにのって話題になるほうがはるかに情報が行き渡る.たとえば,ガスステーションやカーディーラーと一体化したパチンコパーラー,高速道路に組み込まれたパチンコパーラー,ファミリーレストランやショッピングセンターと一緒にある託児所のついたパチンコパーラー,自然の景観と調和する美しく「目立たない」パチンコパーラー...便利で社会的にも好ましいと皆に思われるような郊外ならではのデザインのものができれば日本中の話題になるにちがいない.