9701- ずっと変わらないまち いつも変わっているまち  
 

東京の街は毎年毎年かたちを変えていく.
僕は年の始めに赤坂でお参りをする.そして古い和菓子屋で正月のきれいな和菓子を買って帰る.店の両側には新しいパチンコ店が開業していて,街は一年前にはなかった活気を帯びている.日本では,建築をつくっては壊しつくっては壊し,いつでも新しいものを建てていく.僕たちには当り前のこうしたことは,外国の人たちからみると驚くべきことである.とくにヨーロッパの人たちから見ると,同じ地球上のことなのに,それはまったく別の世界の出来事だ.ヨーロッパの人たちは石でできた古い街を大事にしていて,建築の室内は新しくモダンにしてあっても外観は昔のままにしている.たいへんなエネルギーと費用をかけて古い建物のメンテナンスをおこない,修復をおこない,たとえばルネサンス様式の街にいまでも暮らしている.世界の多くの人たちがあこがれている伝統ある調和のとれたヨーロッパの都市空間,完璧なまでに調和のとれた美しい都市空間は,しかし,意外な面で悩みもかかえている.
オーストリアで行われたあるパーティーで日本人である僕を見つけて話しかけてきた若いグラフィックデザイナーは興奮して訴えかけるのだった.「日本に旅行をしたとき僕は生まれて初めてほんとうに驚いた.東京に数日泊まってから1か月ほど奈良京都に旅をしたんだ.そしてまた東京に帰ってくると泊まっていたホテルの前にはついこの間までなかったビルが建ちあがっていた.ウィーンの僕の家のあたりといったら僕が生まれてからというもの,何ひとつ変わっていないというのに.東京はすごいね!!」若い人にとっては街に変化が無いのは物足りないのである.
江戸以来の伝統で東京はいわば仮設の都市だ.資源の無駄遣いは困るけれど,完成も固定もすることのない絶えず変化していく都市はいきいきとした元気の都市でもある.今年もまた日本の都市のあちこちがかたちをかえていくに違いない.