大きさを持つ剛体は、力が加わったときに(平行移動だけでなく)回転運動をすることがあります。 この回転運動を記述する方法について学びましょう。
力が剛体を回転させるとき、
を示す値が大きければ大きいほど、剛体を回転させる働きは強くなります。
この「剛体を回転させる働き」のことを力のモーメントと呼び、FとLの積で表します。力のモーメントの大きさを N と表せば、NはFとLによって次のように定義されます。
N, F, L はすべてスカラーです。力の単位はN(ニュートン)、長さの単位はm(メートル)が主に 使われますので、力のモーメントの単位はN・m(ニュートンメートル)となります。
大学物理では基本的に力や位置をベクトルで表します。 力のモーメントは力と位置(距離)によって定義される量なので、これもベクトルによって表現できます。
の2つのベクトルの外積で定義されます。
定義式から分かるように、力のモーメントはFベクトルとrベクトルが作る平面に対して垂直です。 力のモーメントの大きさは回転させる働きの強さ、方向(平面の表・裏)は回転させる方向を表します。
剛体の形状や質量によって回転のしやすさが異なるということは自明ですので、 「回転させやすさ」をあらわす量(力のモーメント)の他に「回転しにくさ」を表す量も存在するはずです。 これを慣性モーメントと呼びます。 もちろん正確には(質量と同様に)、「回転しにくさを表す量」ではなく「回転運動状態の変化のしにくさを表す量」と表現すべきです。
複数の質点から構成される系の慣性モーメントは、次式で定義されます。
ここで、miとはi番目の質点の質量を、riとはi番目の質点と回転軸との距離を表します。よって同じ系でも回転軸によって慣性モーメントは異なります。
大きさを持つ剛体の慣性モーメントは、剛体を微小な体積dV[m3]を持つ欠片の集まりととらえてこの式を適応します。
剛体の慣性モーメントの求め方を、次の図のような半径R,厚さh,質量Mの薄い円盤(円柱)のZ軸を中心に回転させるときの慣性モーメントの求め方を例に挙げて具体的に説明します。
円盤の場合は直交座標(x,y,z)よりも円柱座標(r,θ,z)で考えた方が計算が簡単になります。このとき、微小な堆積dVを持つ欠片は下図のように定義します。
この図からわかるように、微小体積dVはr・dr・dθ・dzと表現できます。よって円盤の密度をρ[kg/m3]とすれば、この欠片の重さはρ・r・dr・dθ・dzで表されます。よって慣性モーメントの定義式より、慣性モーメントは
と求まります。
いくつか代表的な形状を挙げ、その慣性モーメントを記載します。Mは剛体の質量、Lは剛体棒の長さ、a,bはそれぞれ板の短辺,長辺の長さ、Rは球及び球殻の半径を表します。
剛体の形状と回転軸 | 慣性モーメント |
---|---|
![]() | ML2/12 |
![]() | ML2/3 |
![]() | M(a2 + b2)/12 |
![]() (長辺の片方を中心に回転させる場合) | Ma2/3 |
![]() | 2MR2/3 |
![]() | 2MR2/5 |
例題として、なめらかな壁に立てかけた剛体棒が静止する条件を考えてみましょう。