- Stability of Strange Quark Matter as source of Ultra High Energy Cosmic-Ray(須山、長沼)
我々の世界は原子核で構成されている。例えば星の中では水素が燃焼(核融合)してエネルギーを放出し、最終的には最も安定とされる鉄に到達し、白色矮星になったり超新星爆発が起ったりして終末を迎える。 これらの原子核の中にある陽子/中性子は素粒子であるクォークが3つの束縛状態として存在している。 しかし状況によっては、3個のクォークが陽子/中性子を構成した上で原子核として集団を作るよりも、非常に多数のクォークが陽子/中性子や原子核といった途中の階層を経ずに、直接大きな塊(強い束縛状態)を作り、原子核よりもエネルギー的に安定した状態として宇宙に存在する可能性が指摘されている。このような状態をクォーク物質と言うが、特にstrangeクォークを含むので、Strange Quark Matterと呼ぶ。このような状態が真に安定か否か、クォーク間相互作用を考慮して検討する。 またもしこの物質が安定な状態であれば、宇宙空間にStrange Quark Matterの破片(droplet)が多数存在すると考えられ、その場合は宇宙線として太陽系に到達することが予想される。宇宙空間における様々な条件を考慮し、その可能性について研究する。
- Effective Lagrangian for Neutrino-less bb decay in R-parity violating Super Symmetric Standard Model (那須、米谷)
標準模型を越える物理を探索する一つの有力な方法として、原子核がニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の検出がある。普通のベータ崩壊はニュートリノを放出するが、標準模型を越える模型では上記のようなプロセスが可能となる。同じような超対称性の物理の研究は例えば加速器を用いたLHC実験でも計画されているが、莫大な費用がかかる。それに比べると地味であるが、より経済的に目的の追求ができる。ここではR-parityを破る超対称標準模型の元でこのプロセスについて研究する。
このプロセスの理論的予測するためには、超対称性粒子の自由度から出発して原子核の崩壊幅を計算しなければならない。そのためにはクォークや超対称性粒子の自由度をいったん陽子/中性子の言葉で書き直し、それを用いて原子核を構成しなければならない。ここではLSZ reduction formulaやsoft-pion theoremを用いて計算を行う。原子核中ではnaiveな超対称性粒子の交換によるプロセスが無視できるほど小さく、パイ中間子を交換するプロセスが支配的になる。これらのプロセスについて評価を行う。
- Crystalline Chiral Condensate at finite density (菅沼、中村)
我々の世界の真空は単なる空っぽな空間ではない。南部とJona-Lasinioにより示されたように、真空にクォーク反クォークの対が凝縮(これをカイラル凝縮という)することでカイラル対称性が自発的に破れ、素粒子クォークは質量を持つようになる。このメカニズムは物体が質量を持つメカニズムに関係する非常に重要なものである。(粒子が対を作って凝縮するというアイデアは、超伝導におけるBCS理論と類似なものである。)またこの現象は量子色力学(QCD)の結合力が非常に強いために起る非摂動的(non-perturbative)な効果で、強い相互作用をする物理系に特有なものである。
この真空に様々な物質が存在し、物質密度が高くなってくると不思議な現象が起ると予想される。 真空中ではカイラル凝縮は位置座標に依存せず一様である。 しかし物質密度がある程度増えると、一様な凝縮を起こすよりは空間座標に周期的に依存した凝縮、つまり結晶構造をした凝縮を起こした方がエネルギー的に低くなる可能性が指摘されている。このような事情は超伝導体にも共通なことでLOFF状態と呼ばれており、実際に外場を加えた超伝導体ではLOFF状態の存在が実験的に観測されている。ここでNambu and Jona-Lasinio modelを用いてこの現象の解析を行う。
- Properties and stabilities of Rotating Neutron Stars (阿部、羽田野)
中性子星は燃え尽きた質量の大きい恒星が最終的に到達する姿であり、白色矮星よりも小さく太陽質量の2倍程度のものがわずか半径10キロ程度の球体に詰まっている非常に密度の高い状態である。このような星は宇宙に無数にあり、パルサーなどとして観測される。
このような質量の大きい星は当然重力で収縮しようとするが、それを内側から支えているのは中性子同士の間の反発力である(ここで陽子や電子は登場しないのは電荷を持っているため、 エネルギー的に損をするからです)。この二つの力が釣り合う場合にのみ、中性子星は存在可能である。 つまりマクロな中性子星という天体の質量や半径を決めるのは、ミクロな中性子間の力(核力という)であり、我々が素粒子/原子核の加速器散乱実験を通して決定した中性子の核力を用いると、 中性子星の性質が予言できることになる。 実際、現在知られている核力の知識と中性子星の観測はある程度の任意性の範囲内で矛盾しない。
しかし良く知られているように多くの中性子星は非常に高速で自転している。当然高速の回転の効果は中性子星の構造に反映されるはずで、そのためには強大な重力の効果と高速回転している効果の両方を一般相対論で評価し、計算を行わなければならない。その議論は静止している場合に比べると非常に難しくなる。 このテーマでは高速回転を含めた場合の取り扱いについて研究を行っている。
- QCD phase transion in early universe and cosmological evolution(浅松、大山)
現在の宇宙は等方的で一様、曲率が0と考えられる。 これらの観測的な証拠は例えば宇宙背景輻射─宇宙が3Kの電磁波 で一様に満たされていること─です。しかしデータを詳細に検討すれば、わずかな揺らぎが観測されており、これを調べることで宇宙初期の様々な情報を得ることができるため多くの注目を集められている。
我々の宇宙ができるには、初期段階で様々な相転移が起ったと考えられている。 インフレーションから電弱相転移、QCD相転移など様々な変化がごく初期に発生し、現在に至っている。 一方でこのような相転移の研究は実験室で行われており、RHIC/LHC実験ではQCD相転移を実際に起こすことに成功し、様々なことがわかってきた。この研究では、相転移の研究から得られた様々な事実を、宇宙初期に応用し、どのようなことが起るかについて研究する。