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研究室の研究内容

当研究室では主にX線による観測により、恒星の集団である銀河や銀河の 集団である銀河団について研究を行う。 銀河団や銀河には数百万度から数千万度の高温ガスが存在し、X線を放射してい る。 また、個々のX線連星系からのX線も観測される。 X線を用いた観測は、銀河進化の研究の新しい手段である。 特に、現在では中性子星やブラックホールになってしまった重い星の形成史の 研究に威力を発揮する。また、 X線による観測から、銀河や銀河団の暗黒物質の分布を求めることができるが、 これは宇宙の構造形成史と深いかかわりがある。

銀河団ガスには、酸素や硅素、鉄などの元素が大量に含まれている。。 ガス中のこれらの元素の質量は銀河の星に含まれる元素の質量に匹敵する。図 1 は、日本の 5 番目の X 線天文衛星「すざく」によって観測されたろ座銀河団の X線スペクトルである。酸素やマグネシウム、硅素、硫黄、鉄などの元素特有の 構造 ( 輝線 ) がくっきりと検出されている。 これらの元素は、銀河の中で超新星爆発によって合成される。 銀河にも数百万度の高温の星間ガスが存在し、強いX線を放射している。 このガスは、主に星からでてきたガスであり、 超新星により合成された重元素により汚染されている。 図 1で 銀河周辺領域では、銀河団ガスよりも輝線強度が強いのは、 現在もこの銀河から銀河団に元素が供給されていることを意味する。 銀河団では、このように合成された元素の数割が、 新たに生まれる星にとりこまれるのでもなく、銀河内に星間ガスとしてとどまる のでもなく、銀河の重力ポテンシャルから、銀河間空間へと脱出したことになる。 銀河団や銀河の高温ガスに含まれるさまざまな重元素の量から、その起源である超新星爆発、さらには、 銀河の星の生成史を研究することができる。星の形成史は銀河の形成史そのものである。

銀河も銀河団も重力を担う物質は正体のわからない暗黒物質である。 高温ガスはほぼ静水圧平衡にあるため、X線により温度と密度の分布を求めることに より重力質量分布を求めることができる。 暗黒物質の分布を知ることは、銀河や銀河団そのものの研究のみならず、宇宙モデ ルそのものや宇宙の構造形成を研究する上で極めて重要である。

近年、近傍銀河の個々のX線星のスペクトルから、X線星の正体が 中性子星か、ブラックホールか、白色矮星なのか調べることが可能になってきた。 これらの星は過去の恒星の残骸である。もともとの星の質量によりその運命が定まるため、 X線星の種族の分布は、どのような質量の星がどのように生まれたかを反映する。 X線星には正体不明のものもある。 このうち、超光度X線天体と呼ばれるものは、 太陽の数百倍の質量のブラックホールではないかといわれている。このような大 きな質量のブラックホールはその形成過程も不明である。X線観測を通して、そ の正体を探ろうとしている。

X線観測は人工衛星を用いる。今、世界では3つのX線衛星が活躍中である。 アメリカのChandra衛星は優れた位置分解能を誇り, ヨーロッパのXMM-Newton衛 星は大きな有効面積を誇る。 2005年に打ち上げられた日本のすざく衛星は、 位置分解能はかなり悪いものの、エネルギー分解能と低いバックグラウンド、 広いエネルギー帯域での感度を特色とする。 当研究室では、衛星に観測提案を出して採択され観測されたデータ、すざく衛 星の衛星チームのデータ、全世界に公開されたデータを用いて研究を行っている。 ほとんどのデータは観測して一年たてば公開され、その解析は全世界の研究者の自由競争となる。 一つの観測提案で観測する天体はせいぜい数天体であるので、多くの天体を調べ ようと思うと、公開されたデータが中心となる。

図1 日本の X 線天文衛星「すざく」で観測されたろ座銀河団の X 線スペ クトル ( 検出器が受けた X 線光子数のエネルギー分布 ) 。上は銀河団中心 にある銀河周辺、下は銀河団ガス ( 日本天文学会天文月報 99 巻 6 号 )



Kyoko Matsushita 平成19年2月6日