感染症の数学予測モデル(SIRモデル) 


はじめに

  2019年12月以降、新型コロナウイルス感染症が世界各地で拡大しています。感染者の重症化や死亡の要因を明らかにして、ワクチン開発を行うことは重要課題であることに間違いないと思いますが、ワクチンが開発され使用できるようになるまでは、感染症の拡大プロセスを理解し、感染者の隔離や外出自粛などの政策を適切に行うことも急務課題といえると思います。ここでは、感染症の数学予測モデルの基本であるSIRモデルを(厳密ではなく大雑把に)説明します。

SIRモデルとは

   SIRモデルは、感染症の流行プロセスを説明する基本的な数理モデルとして知られていて、導関数を含む連立方程式(連立微分方程式)で記述されます。SIRモデルのS、I、Rは、免疫のない非感染個体(Susceptible)、感染個体(Infectious)、回復個体(Recovered)の頭文字に由来し、1927年にKermackとMcKendrickの論文で導入されました。彼らは、時刻tにおける免疫のない非感染個体数S(t)と感染個体数I(t)と回復個体数R(t)の3つの未知関数の時間変化に伴う増減(≒微分)に着目して、次の連立微分方程式を提唱しました。

   S'(t) = - βS(t)I(t),
   I'(t) = βS(t)I(t) - γI(t),
   R'(t) = γI(t).

ここで、βは感染率、γは回復率を表す定数です。

SIRモデルの意味

   上で紹介したSIRモデルの3つの方程式の意味を考えてみましょう。

   (1番目の方程式) 左辺は免疫のない非感染個体数S(t)の変化の割合を表していて、それが右辺に現れる非感染個体数S(t)と感染個体数I(t)の積に比例して減少することを表しています。つまり、感染していない個体の数は、感染している個体との接触により減少するということです。

   (2番目の方程式) 左辺は感染個体数I(t)の変化の割合を表していて、それが右辺のように 非感染個体数S(t)と感染個体数I(t)の積に比例して増加しつつ、感染個体数I(t)に比例して一定の割合で減少することを表しています。つまり、感染している個体の数は、感染していない個体との接触により増加しつつ、一定の割合で回復するから減少するということです。

   (3番目の方程式) 左辺は回復個体数R(t)の変化の割合を表していて、それが感染個体数に比例して一定の割合で増加することを表しています。つまり、感染者は一定の割合で回復しますから、その分、回復者数が増えるということです。

   ただし、このSIRモデルの前提条件として、 一度免疫を獲得した者は2度と感染することなく、免疫を失うこともないとし、全体人口で外部からの流入及び流出はなく、出生者及び死亡者もいないとしています。実際には、地域による環境の違いや個体の移動も考慮に入れた複雑なモデルが必要となります。

SIRモデルの解の挙動(感染症の数学予測)

  SIRモデルの解(S(t), I(t), R(t))の時間の経過に伴う挙動がわかれば、感染症の数学予測が可能になります。このような数理モデルの解の挙動を数学的に解析する方法やより一般の数理モデルに興味がある人は、文献を調べて勉強するか、あるいは、私の講義「解析学4」(後期の火曜4限)を受講してください。


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