東京理科大学研究推進機構総合研究院             


幾何学と自然科学融合研究部門 

                                              

研究メンバー & 研究紹介


                                                   

理学部第一部数学科 教授
小池直之(部門長)

 私は、微分幾何学,及び,幾何解析学(微分幾何学と解析学の双方を用いた研究)を研究しています。特に,理論物理学におけるアインシュタインの一般相対性理論において、時空として扱われる4次元ローレンツ多様体の一般概念である擬リーマン多様体内の部分多様体とよばれる図形を研究しています。この研究には、リー群(微分構造備えた群)の擬リーマン多様体への作用、及び、擬リーマン多様体内の部分多様体の時間発展(平均曲率流、逆平均曲率流等)も用います。また、理論物理学におけるゲージ理論も、微分幾何学の視点から研究しています。この研究には、無限次元ヒルベルト空間(完備な無限次元内積空間のこと)内の部分多様体論、その空間へのヒルベルトリー群作用、さらに、そのヒルベルトリー群作用に関する不変性をもつ正則化された平均曲率流という概念も用います。将来的に、私は、上述の各研究の離散版の理論を構築し、(広い意味での)自然科学のいくつかの研究(量子力学(量子ウォーク等),物性学(クラスターの超対称性,界面等),分子生物学(酵素に着目したDNA・RNAの機構の理論的解明等),粒界・複合材料力学(粒界の構造のコントロール法・強度の研究、及び、その複合材料力学への応用))に応用したいと考えています。

理学部第二部数学科 教授
佐古彰史(副部門長)

 私は、量⼦化をキーワードに時空の⾮可換化の理解を⽬指している。
現在、標準理論と呼ばれる場の量⼦論と、量⼦化が成功していない重⼒理論によって現実世界がおおよそ理解されているが、宇宙初期やブラックホールなどの⾼エネルギーでの破綻がどのように新しい理論を構成するかという興味深いテーマがある。量⼦⼒学が起こった、「量⼦化」が時空に対しても起こると予想されるため、時空の量⼦化という⾮可換幾何が必要になる。しかし、現在までに研究されている⾮可換幾何は⼗分にその役割を果たしていない。弦理論の構成的定式化などにあらわれる⾏列模型などを⾜掛かりに,⾮可換幾何の新たな可能性を模索している。

創域理工学部数理科学科 教授
田中真紀子

 群作⽤に関わる幾何学の研究をしています。具体的には、リー群が推移的に作⽤する等質空間に興味があり、その中でも特別な対称空間の幾何学の研究をしています。対称空間には各点で点対称とよばれる対合的変換が定まっていて、そのことから多くのよい性質が導かれます。測地線や曲率などを具体的に記述できることから幾何学的な構造や性質を詳しく調べることが可能になります。リー群は対称空間とみることができます。特にコンパクトなリー群には点対称で不変なリーマン計量が存在してリーマン対称空間になります。しばらく前からコンパクトリー群やコンパクト対称空間の対蹠集合について研究を進めています。対蹠集合とはそのうちのどの2点も対蹠的である(⼀⽅の点での点対称で他⽅の点が動かない)ような離散部分集合です。これらの研究を通じて得た知⾒をもとに本研究部⾨における融合研究に取り組みます。

創域理工学部数理科学科 教授
廣瀬 進

 低次元トポロジー特に曲⾯の写像類群について研究している。写像類群は 34 次元などの低次元多様体の近年の研究において,その重要性の認識がさらに深まってきている曲⾯をファイバーとするファイバー構造,例えば双曲構造を持つ円周上の曲⾯束や Lefschetz ファイバー空間を表すものであり、また、⼒学系の観点からも興味深い対象である。⼀⽅、写像類群の⼀種とみなせる組みひも群は、結び⽬と深いかかわりを持つ対象であり、写像類群の研究を通じて結び⽬についての研究も進展させる。

理学部第一部物理学科 教授
鈴木克彦

 素粒⼦‧原⼦核及び⾼エネルギー天体を対象として、主として強い⼒に関係する物理学の研究を⾏っています。強い⼒を記述するゲージ理論はクォークを⾃由度とする量⼦⾊⼒学ですが、その⾮可換性のために低エネルギーで⾮摂動性を⽰します。その基底状態である我々の世界の真空は、対称性の⾃発的破れや閉じ込めなど⾮常に複雑な性質を有しています。本研究院では量⼦ウォークのアプローチをゲージ場が存在する状況や曲がった時空中で定式化し、⾮摂動的な現象を量⼦ウォークを⽤いて記述することを⽬指します。

理学部第一部物理学科 教授
二国徹郎

 私は量子多体系の理論的研究を専門としており、特に冷却原子系における非平衡ダイナミクスや、量子アルゴリズムの最適化問題・量子多体問題への応用に関心を持っています。本研究部門では、グラフ構造上の量子ウォークに着目し、グラフの幾何学的性質が量子ウォークのダイナミクスに与える影響を理論的に解析しています。

理学部第一部化学科 教授
田所 誠

 準1次元ナノ細孔をもつ親水性分子単結晶の内部に水を閉じめて得られた水クラスター(WNT: water nanotube cluster) について、構造科学的な研究やプロトン伝導度の測定を行なっている。このような結晶性ナノ細孔に閉じ込められたWNTは、液体であるが狭い領域で壁面の規則的な原子の影響でダイアミックなWNT (DWNT) を形成し、水と氷の混在した新しい前融解相を形成することが分かった。本研究では DWNT を利用した 人工的なGas hydrateDynamic Ion-clathrate hydrateなどの新しい水材料の創成を目指している。

創域理工学部機械航空宇宙工学科 教授
荻原慎二

 航空宇宙⽤軽量繊維強化複合材料の⼒学的特性について研究を⾏っている。特に、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)について主に着⽬する。この材料は、樹脂材料への炭素繊維複合化による不均質性と著しい異⽅性、積層構造に特有な特徴的な⼒学的特性を有するため、実験・解析モデリング双⽅からのアプローチを取る。実験的には様々な形態の負荷による変形挙動と共に、材料内の微視的損傷発⽣・進展プロセスの検討を行う。得られた実験結果への幾何学的アプローチを検討する。

創域理工学部機械航空宇宙工学科 教授
高橋昭如

 転位論に基づく転位動⼒学シミュレーション(転位動⼒学法)を⽤いて、⾮均質な⾦属材料である合⾦中の転位挙動に関する研究を⾏っている。特に、転位と析出物との原⼦論的および連続体論的相互作⽤を扱う計算モデルを構築し、合⾦の強度発現機構や微⼩スケール合⾦における⼨法効果のメカニズムについて、数値解析に基づくアプローチを⾏っている。

創域理工学部数理科学科 准教授
大橋久範

 代数幾何学に現れる種種の群について、主に自己同型の観点から調べている。有限単純群が作用するような離散的対象に現れる特殊性と代数幾何的に面白い計算のできる多様体に現れる特殊性が似通っていることが経験的に知られており,特にGolay code Mathieu群、Conway群などの性質を用いてK3曲面やEnriques曲面の自己同型の性質を定性的に記述する問題に興味を持っている。群作用の離散不変量を用いた組み合わせ論や、代数多様体の同変射影モデルの記述が主要な問題であり、その周辺にある双曲空間じおける離散等長変換群、ガロア理論的な数論や特異点論なども興味を持って調べている。

創域理工学部数理科学科 准教授
馬場蔵人

 微分幾何学においてリーマン幾何学は、リーマン計量とよばれる構造をもつ多様体について研究する分野です。私はこれまで、対称空間とよばれるリーマン多様体を主たる研究対象として取り組んできました。対称空間は、幾何学、代数学、解析学といった数学の多岐にわたる分野と結びつきながら、多彩な定理が⽣み出される豊かで魅⼒的な多様体のクラスです。特に、対称空間はリー群論と深い関係にあり、対称空間上の測地線や曲率の解析においては、リー群およびそのリー環の構造が極めて重要な役割を果たします。Élie Cartanによって確⽴された基礎理論(類理論、双対性)を出発点として、私はその理論を深化させ、対称空間上のリー群作⽤に付随する分類問題の解明や新たな双対性の発⾒を⽬指して研究を進めています。

理学部第一部数学科 准教授
山川大亮

 有理関数を係数とする線形常微分⽅程式に対し,その局所解の解析接続の様⼦を記述するモノドロミー・ストークスデータと呼ばれるものを考えることができる.微分⽅程式の係数をうまく連続変形すると,モノドロミー・ストークスデータが本質的に変わらないという状況が起こり,そのような変形(モノドロミー保存変形)を無限⼩レベルで記述する⾮線形微分⽅程式やその量⼦化は,可積分系や共形場理論,ゲージ理論等に現れる.現在,モノドロミー保存変形がもつ対称性や,その幾何学的側⾯を研究している. 

理学部第一部数学科 准教授
大山口菜都美

 私の専門は低次元トポロジー、特に結び目理論および空間グラフ理論です。結び目や空間グラフとは、それぞれ円周S^1や有限グラフを3次元空間へ埋め込んだものであり、それらのトポロジー的な性質を調べています。特に、4価頂点を持つ空間グラフの固定頂点イソトロピー類の分類に興味を持っており、4価の固定頂点グラフはDNAなどの構造変化を記述する上で相性が良いため、本研究部門における融合研究に活かしていきたいと思います。

理学部第ニ部数学科 准教授
新田泰文

 Kähler多様体における標準計量の存在問題について、幾何学的不変式論の意味の安定性との関係に注⽬して研究を⾏っている。特に、偏極多様体に対して「K-安定であることとその偏極類がスカラー曲率⼀定Kähler計量を含むことは同値であろう」という予想がYau-Tian- Donaldson 予想として知られているが、この予想及びそれに関連して現れる問題に強い興味を持っている。最近は重み付きスカラー曲率⼀定Kähler計量(以下 wcscK)を考え、種々の標準Kähler計量の存在問題について統合的な視点から研究を行っている。また、wcscKを用いた、形の異なる標準Kähler計量の存在問題について横断的な研究にも取り組んでいる。

理学部第一部化学科 准教授
大坪主弥

 私は、金属イオンと有機分子(配位子)から組みあがる金属錯体を用いた研究を行っています。金属錯体は、共有結合や水素結合等と比べて、程よい強さの配位結合で構成されていること、また、金属イオンと有機配位子の組み合わせはと言っていいほど膨大であることから、 単純な無機化合物と異なり柔軟性や設計性の高さを生かした多彩な物質デザインが可能になります。私は、このような金属錯体を中心とした固体物性化学に関する研究を行っています。 特に、新しい合成・反応手法を駆使した新奇化合物の創出や、放射光を始めとした先端計測手法からその物性を解き明かすことに興味があります。

生命医科学研究所/大学院生命化学研究科 准教授
櫻井雅之




理学部第一部数学科 助教
梶ヶ谷徹

幾何学的な変分問題、特に体積やエネルギー汎関数と言った古典的な汎関数の臨界点として現れる写像の性質やその幾何学的実現に興味があります。そのような写像を、リー群論と言った代数的手法や幾何解析の技術などを組み合わせて調べています。最近はグラフと言った離散的な図形の実現およびその性質を、微分幾何学的手法を用いて調べるための基礎的な研究も行っており、そのような基礎研究の分野を超えた応用にも強い関心を持っています。

理学部第一部数学科 助教
藤井知輝

 私は,平均曲率流のソリトンについて研究を行っている.平均曲率流のソリトンとは,平均平均曲率流の下で等長変換を除いて形が変化しない部分多様体のことである.平均曲率流の特異点はType IとType IIに分類されるが,Type IIの特異点周辺をスケール変換すると,トランスレーティングソリトンと呼ばれる平均曲率流のソリトンの一種が特異点周辺のモデルとして現れる.そのため,トランスレーティングソリトンの形状を調べることは,平均曲率流の特異点の理解つながる重要な研究となっている.私は,主にリーマン多様体上の関数のグラフで表されるトランスレーティングソリトンやその他の平均曲率流のソリトンの形状について調べている.このとき,関数はある微分方程式の解となっているので,その微分方程式の解のグラフの形状を分類している.

客員教授(お茶の水女子大学理学部 教授)
下川航也

 結び⽬理論、および、3次元多様体論の研究を⾏い、その成果をDNAのトポロジーの研究に応⽤する。DNA組換え酵素は、組換えの際にDNAのトポロジーを変化させるものがある。組換えは、結び ⽬・絡み⽬のバンド⼿術としてモデル化出来る。組換え前と組換え後のトポロジーの情報を⽤いて、組換え酵素の働きを明らかにする。これまでの研究で、DNA絡み⽬が組換え酵素により解かれていく様⼦をトポロジーの観点で分類している。今回の研究はその⼿法に加え、微分幾何的観点を⽤いることにより、より詳細な情報を得ることを⽬標とする。さらに、DNAの遺伝⼦発現などの過程において、DNAの幾何構造がどのように影響を与えているかを研究する。また、DNA組換えの研究は、渦結び⽬や⽋陥線の作る結び⽬の研究へも応⽤されているので、その様⼦も研究出来ればと考えている。

客員准教授(東北大学材料科学高等研究所 准教授)
井上和俊

 転位や粒界は結晶格子中の欠陥であり、ナノスケールの歪み分布がマクロスケールの力学特性に大きな影響を与えている。また、結晶粒成長は高温焼結中のドラスティックな粒界移動により生じるきわめて複雑な現象である。本研究では、離散微分幾何学を用いた格子上の転位・粒界モデルを構築し、その連続極限を検討する。また、離散モデルを反映した連続体上の粒界理論を提案する。粒成長条件決定については、粒界移動度の結晶方位依存性を検討し、実験結果を再現するフェーズフィールドモデルの構築に取り組む。

客員研究員(=客員講師)(東京大学生産科学研究所 講師)
塚本孝政

 私は、数個〜数⼗個の原⼦から構成される微⼩な粒⼦状化学物質「クラスター物質」に着⽬し、実験と理論の両⾯から本物質群の開拓を進めている。特に理論研究においては、近年、分⼦軌道のエネルギーが通常の化学物質ではありえないほど縮退した奇妙なクラスター物質「超縮退物質」を発⾒した。この現象は、3次元空間の幾何学的対称性の枠内では説明できないことから、これを超える⾼い対称性(⼒学的対称性)に由来するものであることが⽰唆されている。現在、化学とは異なる視点から当該現象の本質的な理解を⾏うことを⽬指し、新たに数理科学的なアプローチに基づく学理の構築を検討している。