格子比熱容量の測定実験 データ解析の概要
本実験によって直接得られるデータは、時刻、試料内熱電対電圧、ヒーター電圧、ヒーター電流の4種である。このデータを解析することで比熱容量やエントロピー等の熱力学書量が求められる。そこでこの比熱容量を求めるためにパソコン内部で行われている処理について解説する。
格子比熱の実験の手順は格子比熱の実験手順を参照のこと。
1.概要
比熱容量は、突き詰めて言えば
(C=比熱、Q=熱量、ΔT=上昇温度)
で求めることができる。つまり、実験中に試料に供給された熱量と、これによって上昇した温度を算出することになる。
2.試料に供給された熱量
本実験では1秒間隔でデータを収録しているため、試料に供給された熱量(即ちヒーターの発熱量)は、ヒーターの電流(A)と電圧(V)の積を時間に対して全てたし合わせたものとして与えられる。
3.温度上昇
この熱量によってどれだけ温度が上昇したのか見積もることは少々工夫が必要となる。
まず、熱量供給は一瞬で行われるわけではない。つまり、熱量を供給している間にも、試料は熱を奪われていることを考慮しなければならない。
さらに、供給された熱量が試料全体に均等に行き渡るためにも時間を要する。もちろん、この間にも試料は冷えていく。試料の温度分布が均一になる前の測定温度は過渡現象を表している。なぜならば、この状態での温度とはあくまで熱電対付近の温度であり、平衡状態の試料温度として扱って良い値では決してないのである。
まず、次頁左側の図を見てもらいたい。
左は収録したデータそのものである。ヒーターに通電している間に温度が上昇していて、その後ゆっくりと冷えているのである。このグラフでの上昇温度(瞬時にエネルギーが注入されたと仮定した際の)は右図の太線部分である。
この上昇温度を求めるために行われている操作を順を追って解説する。
3−1.上昇温度見積もりの概要
行う操作は次の2点である。
(1)ヒーター通電前を直線近似する
(2)ヒーター通電後を自然対数近似する
(3)この二つの近似式をそれぞれヒーター通電時刻の中点まで外挿*する
*外挿
得られたデータから近似式を求め、得られた範囲の外の値を推定すること。
内挿は得られたデータの内の値を推定すること。具体的には、時刻t=1とt=3の値が分かっている時にt=5の値を推定することが外挿。t=2の値を推定することが内挿である。
3−2.ヒーター通電前
ヒーター通電前も通電後も試料の温度は、平衡状態では恒温壁の温度に近づいていく。充分に時間をおけば、この温度変化は無視できる程に軽減される。しかし現実の世界で平衡状態を実現することは難しい。よって、実験手法および解析で物質本来の値に迫る工夫が必要となる。平衡状態を仮定したNewtonの冷却則を当てはめると、このままでは自然対数近似をしても非現実的な解析になる。そこで、ヒーター通電前の温度を直線近似し、この式の値を全てのデータから減じることとする。このように補正された値をBase-Lineと呼んで、通電前の平衡状態を解析上実現させる。
当然の事ながら、Base-Lineはヒーター通電前の試料温度上昇がほぼ0になることはすぐに分かるであろう。
3−3.ヒーター通電後
通電後はNewtonの冷却曲線に従うとして補正された冷却曲線の該当部分を自然対数で近似する。
しかし、ヒーター通電終了直後は、試料内の温度分布に過渡現象が観測される。よって、本実験が目的とする平衡状態での物性値を求める際には右側の図の様に、平衡状態と見なせる領域で近似するべきである。
4.手順
以下にデータ解析のためのパソコンの操作を述べる。
(1)まず、final.viという解析プログラムを開く。
(2)画面左上の実行ボタン(⇒)をクリックし、ファイルから読み込むデータを選
択する。すると、フロントパネルに生データによる解析結果のグラフが表示さ
れる。
(3)実際にヒーターに通電した時刻を入力する。(最初は150秒から300秒までに
設定されている)
(4)下段中央のグラフ(冷却曲線の自然対数をとったもの)に着目し、線形フィット
するべき範囲の始点と終点を入力する。
(5)再び、実行ボタンをクリックし、先程と同じデータを選択する。すると、線形
近似が適切に行われたグラフが表示される。
(6)最後に、上昇温度および、比熱容量を読み取る。
これで、データの解析は終了である。
謝辞:本実験の情報処理教育の導入に当たり、元大学院生高沢章博士、理数教育卒業研究生山本岳氏のご協力を得た。茲に厚く謝意を表す。