概要

 固体の物理的性質、即ち物性は、結晶格子という舞台の上で電子がいかに振る舞うかに起因します。従って物質中の電子構造の研究は、様々な物性のミクロな起源を解明する上で重要な位置を占めています。齋藤研究室では、目標を強相関電子系と呼ばれる物質群の電子構造の系統的・総合的理解におきつつ、異常な或いは応用上重要な物性を示す(かもしれない)個々の物質、特に3d遷移金属化合物の電子構造を研究しています。強相関電子系では、電子の電荷、電子スピン、及び格子振動の3自由度が互いに複雑に絡み合って多彩な物性を生み出すことが近年わかってきました。例えば、高温超伝導、巨大磁気抵抗、金属絶縁体転移、磁場誘起構造相転移などはその一例です。齋藤研究室では特に異常な磁気的性質を持つ物質に興味を持ち、その磁性の起源が電子相関とどのように関連付けられるのかを研究しています。 研究手段としての実験手法は、電子構造を直接観測する実験方法である(角度分解)光電子分光法、それと相補的な情報が得られるX線吸収分光法などを用いています。さらに測定データの解析においては、第一原理バンド計算やクラスターモデル計算等の理論計算も行っています。

スピンとキャリアを独立制御できる新しい酸化物磁性半導体

Sr1-(x+y)Lax+yTi1-xCrxO3
現在磁性半導体としてGaAs:Mn、ZnO:Mn/Co、ZnTe:Cr等が広く研究されているが、酸化物でかつスピンとキャリアを独立制御できれば環境負荷が小さく、望みの性質を持つ磁性半導体が実現する可能性がある。まだ物質探索の段階であるが将来の応用の芽となるかもしれない。
(試料:早稲田大学理工学部物理学科 勝藤研究室との共同研究)

スピンクロスオーバーを示すCo酸化物LaCoO3とその関連物質の電子構造

LaCoO3は、他の多くの遷移金属酸化物とは異なり、低温(=基底状態)でS=0の低スピン状態となり、温度上昇とともに磁性状態が現れる、所謂スピンクロスオーバー現象を示します。しかし高温磁性状態の正体については、長年議論が続いていて決着がついていません。一方、Co3+酸化物はLiCoO2のように二次電池電極として応用されているもの、NaxCoO2のように熱電物質として応用が期待されているもの、等様々な応用側面も持ちます。我々の研究室では、これら応用を見据えつつ、より一般的な立場でCo酸化物の電子構造を理解することを目標にしています。
(試料:電気通信大学量子・物質工学科 浅井研究室、東京医科大学 小林研究室との共同研究)

Coドープにより異常な強磁性を示すFe-Co酸化物Sr3Fe2-xCoxO7-dの電子構造

層状Fe酸化物Sr3Fe2-xCoxO7-dのFeの一部をCoに置換すると反強磁性から強磁性に転移しますが、その原因は全く解っていません。そこでこの物質の電子構造を解明することで異常な強磁性の原因に迫ります。
(試料:上智大学機能創造理工学科 桑原研究室との共同研究)

熱電・マルチフェロイック酸化物CuCr1-xMgxO2の電子構造

層状Cr酸化物であるCuCr1-xMgxO2は、p型透明金属CuAlO2やマルチフェロイック物質CuFeO2と同じ結晶構造を持ち、温度差によって電位差を生じる熱電材料として検討されています。その応用可能性と電子構造との関連を、特にCuやCrの価数、Mgドープしたときの電子構造の変化から研究しています。
(試料:鹿児島大学大学電気電子工学科 奥田研究室との共同研究)

CMRを示すMn酸化物の電子構造

ペロブスカイト型酸化物La1-xSrxMnO3や層状Mn酸化物La2+2xSr1-2xMn2O7は磁場をかけると電気抵抗が激減する超巨大磁気抵抗(CMR)という特性を持ち、スピントロニクスへの応用が盛んに研究されている物質ですが、何故このような非常に大きな磁気抵抗効果が生じるのかは完全には理解されていません。我々の研究室では(角度分解)光電子分光法を用いてこの物質の詳細な電子構造の調べ、そこからCMRの原因を探ろうとしています。
(試料:上智大学機能創造理工学科 桑原研究室との共同研究)