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研究概要

自己組織化による結晶構造制御

本プロジェクトでは、分子自身の「集まる力」を利用して、分子の「集まり方」を制御します。分子が自然に集まって規則的な構造を形成する“自己組織化” といわれる性質は、これからの機能性性材料の開発にとって非常に重要です。現在では科学の進歩により、分子のピンセットを使って分子を金属基盤上に1つ1つ好きなように並べることが可能となっています。もちろん、分子を2次元平面にすき間なく詰めることができれば新しい単分子膜として有用であり、その2次元のシート構造をもつ膜にナノサイズのチャネル空孔を規則的に空ければ、機能性多孔質膜として扱うことができます。しかし、このような人間に使える分子膜をピンセットで1つ1つ分子を摘まんで作ることが可能でしょうか。(否!)そのような2次元シート膜は、膨大の時間と費用が掛かり、私たち人類が使用できるような材料を作り出すことはできません。ではどのように人が使えるような分子材料を作ることが可能となるでしょうか?そこで、分子の“自己組織化”をうまく利用してあげることによって、思い通りの配列を結晶中や2次元表面上に作ることが可能となります。このような自己組織化を分子レベルで研究し、材料や機能物性に適用していこうとするのが、このプロジェクトの目的です。

水素結合型中性遷移金属錯体による結晶構造の制御

私たちは、水素結合や配位結合の両方を制御可能な架橋配位子2,2'-ビイミダゾレートモノアニオン (Hbim–) について精力的に研究しています。この配位子は、相補的な2点の水素結合サイトと遷移金属イオン対しての2座キレート配位子として配位結合可能なサイトを有しており、水素結合の方向性と遷移金属イオンの配向性をうまく利用することによって多種多様な結晶構造を形成することができます。これまでに電荷の存在しない中性型の錯体の結晶構造として、(A) 0次元水素結合ダイマー型、(B) 1次元水素結合直線鎖、(C) 1次元水素結合ジグザグ鎖、(D) 2次元水素結合ハニカムシート、(E) 3次元キラルらせん鎖とつくり分けることに成功しています。それぞれ、(A)は1つのHbim– を配位させた金属錯体、(B)と(C)は、2つのHbim– を配位させた金属錯体の内トランス型とシス型、(D)は3つのHbim– を配位させたトリス型金属錯体(Δ体とΛ体の光学異性を含むラセミ体)、(E)は2つまたは3つのHbim– を配位させた金属錯体(Δ体あるいはΛ体の光学分割された光学異性体)となっています。

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水素結合型アニオン性ニッケル錯体のカチオンによる水素結合鎖による制御

水素結合型アニオン性金属錯体 [NiII(Hbim)3]– は上記のように相補的な水素結合を形成し、水素結合型高分子鎖を構築します。この構築素子は光学異性体であるΔ体とΛ体をもち、カチオンを伴って結晶化することが特徴です。また、予め [NiII(Hbim)3]– を合成単離しなくても、Ni2+、H2bim, カチオン塩、塩基を加えて、MeOH中の”ワンポット”で合成できることが特徴でもあります。NMe4+, NEt4+, NnPr4+, NnBr4+, NMeEt3+ 等を用いて (A)H2Oを介したトリゴナールシート、(B)1次元ジグザグリボン鎖、(C)2次元ハニカムシート、(D)2次元拡張型ハニカムシート、(E)らせん構造と [NiII(Hbim)3]– の水素結合鎖構造をつくり分けられることが分かりました。(E) のらせん構造については、二重螺旋のネットワーク構造をとることが分かりました。まず、Cs+の単独カチオンでは、2次元ハニカムシート構造が2つ対になって、2重に相互貫入 (interpenet-ration) した結晶構造をもちます。互いに相互貫入しているハニカムシート同士は、Cs+とのCs+–π相互作用として、Hbim– の骨格のπ電子との配位結合が安定化に寄与しています。一方、二重らせん構造をベースとしたネットワークでは、大きな87 (81)らせんの内部に43 (41)らせん の構造体が相互貫入している。この構造も左巻二重らせんからなるネットワークと右巻二重らせんからなるネットワークが互いに相互貫入した構造をもつため、1つのネットワーク構造はキラルであるが、全体ではラセミ混合物となった結晶となります。この結晶の基礎となるのは光学異性体であるΔ体とΛ体をCs+が連結しているため、二重らせん構造を作ることができます。

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カチオン・イオン対の四重らせんに収束する結晶構造

ジメチルプロピルメチルフェロセンアンモニウムイオン ([Fe(DMF)]+)は、非常に特異的であるが、3つのカチオンと1つのアニオンからなる4重らせん構造を構築します。(1)、(2)、(3)とI– のそれぞれのらせん回転曲率が異なっており、~2 nm スケールのキラルな1次元ナノ多孔質結晶に導入された形を含んでいます。この結晶は[NiII(Hbim)3]– がつくる水素結合ネットワークが形成する2次元ハニカムシートの積層構造からなっています。その積層構造に対して6枚で1周期の61らせんあるいは65らせん構造をつくっており、それに伴ってナノチャネル空孔もキラルな空孔構造を有することになります。図中の多孔質空孔の中の●は、I– のイオンを表しており、キラルな配列構造をもつことがよく分かります。

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1次元ナノ多孔質骨格構造をもつ分子性ゼオライトへの自己組織化

分子の自己組織化によって機能性材料を作るためには、1つの可能性としてナノ多孔質チャンネルをもった結晶に集積させる方法が重要です。このような分子を用いた多孔質材料では、MOF(金属有機構造体:metal organic frameworks)、COF(共有結合性有機構造体:covalent organic frameworks)、HOF(水素結合性有機構造体:hydrogen bonded organic frameworks)などが知られています。しかし、我々の水素結合型錯体はこのどれにも属さない新しいカテゴリーの物質であり、HBCF(水素結合性錯体構造体:Hydrogen-bonded coordination frameworks)と名付けました。この系はMOFのような剛直性を有するが、HOFのような柔軟性を併せ持つ分子材料群になります。このHBCFを用いたナノサイズの大きな空孔を有した多孔質材料の創成は、その柔軟性により空孔骨格を保つのが難しいことが欠点になります。MOFやCOFのような通常のナノチャネル結晶は、一旦空孔構造をもつ構造体を合成した後、ガスなどの分子を導入することが試みられていますが、骨格構造を保つ主体となる結合が水素結合という弱い結合になると、大きなナノ細孔構造を保つのが、難しくなってきます。そのため、自己組織化反応を利用して、空孔内部に導入したい分子を鋳型として、多孔質骨格へ集積させ、すでに多孔質骨格内の空間に分子を導入した状態で結晶を作成しています。下図左には自己組織化反応によってカチオン性物質を鋳型にして多孔質骨格の結晶構造を形成するメカニズムを簡単に示しています。そのため、空孔内に入るモノは、かなり制約を受けることになりますが、様々な分子性カチオンを、その[NiII(Hbim)3]– がつくる水素結合多孔質骨格内に導入することに成功しました。下図右にはいつかの小分子カチオン、クラウンエーテルカチオンの結晶構造を示しています。いずれも、多孔質チャネル骨格の内部に小分子が導入された形になっています。大きな+1電荷のカチオンであると単位空孔あたり、–2電荷を補償しなければいけないため、2つ入る場合が多いが、小さいカチオンでもイオン対を形成することによって、導入されている場合がしばしば見られることが分かりました。

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