東京理科大学 理学部第一部化学科 築山研究室

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電波望遠鏡による星間分子の探査

星間分子(Interstellar Molecule)とは星の間にある雲に存在する分子のことである。分子の雲にはDiffuse Cloud、暗黒星雲、星形成領域、星周雲などがあり、これまでに190種(2018年4月現在)の分子が観測されている。星間空間は、低温・低密度のため地球上では安定に存在し得ないイオンやラジカルが数多く存在する。

我々は分子の探索活動を行っており、これまで様々な分子を観測してきた。最近の例としては、C7Hの検出がある。このような発見は星形成領域における化学進化の解明のカギになることが期待され、現在も観測を進めている。以下に、今日までに我々が進めてきた共同利用観測の結果を紹介する。

共同利用観測状況

銀河中心における13C16O/12C18O同位体比の調査 NEW

広く知られているCO分子は、分子雲の化学的・物理的性質を探るために最も重要なトレーサーのひとつである。実際の観測では、存在量が多すぎてスペクトルが飽和しやすい12C16Oより、その同位体である13C16Oと12C18Oが用いられる。これらの存在比13C16O/12C18Oを求めることで、分子雲の性質を知ることが可能となる。我々は野辺山45 m電波望遠鏡を用いて、銀河中心方向のCOを観測した。その結果は下図のようなピーク群が得られた。銀河中心の成分はVLSR = 61 kms-1のピークを示す。そこでの13C16O/12C18O比は銀河系の外縁部での値よりも大きいことが今回明らかになった。この比は今後銀河中心の標準値として活用できる。(Web Journal)

同位体13C16Oのスペクトル 同位体12C18Oのスペクトル

直線炭素鎖アルコール H-(C≡C)n-OH の探査

暖かい星形成領域ではメタノールやエタノールなどのアルコール類が多くなることが知られており、 直線炭素鎖アルコール H-(C≡C)n-OH の存在が予想される。 炭素鎖の長い HC4OH(H-C≡C-C≡C-OH) についてはマイクロ波分光からその回転周波数が明らかになっている。 そこで我々は最近、この遷移周波数を用いて L1527 と TMC-1 での探査を行った。 直線炭素鎖分子ではアルコールがシアン化物よりはるかに少ない傾向が見られ、HC4OH を検出することはできなかった(下の図及びADS参照)。

DIBs候補分子 H2CCC の検証

2011年、スイスのMaierらは、Cavity Ring Down分光法によって、 DIBs(ぼやけた星間線:Diffuse Interstellar Bands)と同じ波長(4881Åと5450Å)に、H2CCC のピークを検出した。 これが正しければ DIBs 初の同定となるが、何人かの研究者からその主張を疑問視する報告がされている。 そこで我々は HD183143(矢座)方向の分子雲において、H2CCC の探査を行った。 結果として、H2CCC は検出されず、DIBs は H2CCC では説明できないことが分かった。 (下の図及びADS参照)。

低質量星形成領域 L1527 における HC3N の 13C 同位体の観測

一般に暗黒星雲 TMC-1 では二炭素成長機構が起きることが知られている。そこで、我々は TMC-1 より進化の進んだ星形成領域である L1527 においてもそのような機構が発生しているか、二炭素成長機構は分子雲の進化段階に普遍であるか否かを調査した。GBT 100 m 望遠鏡を用いて TMC-1、L1527 それぞれの HC3N の 13C 同位体比を測定した。その結果、両者とも同様な比率を示したことから二炭素成長機構は分子雲の進化段階に普遍であることがわかった。(下の図及びADS参照)。

グリーンバンク電波望遠鏡を用いた星形成領域 L1527 における C7H の検出

米国立電波天文台のグリーンバンク電波望遠鏡(ウェストバージニア州、GBT 100m) を用いて、星形成領域として知られる L1527 を探索した。その結果、鎖状分子である C7H の検出に成功した。この分子は奇数個の炭素を持つよくクムレン類の中では最長の分子である。

これまでこの分子は、晩期型星の星周雲でしか発見されていなかったが、L1527 で検出されたことから、分子雲での初の検出となった。この分子は不安定であるため、極低温かつ高真空の宇宙空間でなければ安定に存在できない。このような炭素鎖の長い分子の発見は、有機物の進化や惑星形成の研究にも貢献すると考えられる(下の図及びADS参照)。

野辺山高原にある直径45mの電波望遠鏡 探査を行った分子 HC4OH
検出されなかったHC4OHと検出された分子 グリーンバンク100m望遠鏡によるHC3Nの同位体
H2CCCの検証
(曲線は検出された場合の予想スペクトル)
C7Hの模式図
C7Hのスペクトル