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進捗状況


 研究を開始して4年で、いくつかの重要な研究成果が得られています。


1.エネルギー可変ポジトロニウムビームの生成

高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所低速陽電子実験施設で、エネルギー可変ポジトロニウムビームの生成に成功しました。東京理科大学と高エネルギー加速器研究機構の共同研究です。結果をApplied Physics LettersおよびNuclear Instruments and Methods in Physics Research Aに発表しました。
 また、東京理科大学でも、エネルギー可変ポジトロニウムビームの生成に成功しました。現在、論文を執筆中です。

2.エネルギー可変ポジトロニウムビームを利用した固体表面の研究
 東京理科大学のポジトロニウムビーム発生装置を使って、ポジトロニウムの固体表面での回折の実験を開始しています。

3.ポジトロニウム負イオンと光子の相互作用の研究
 高エネルギー加速器研究機構の低速陽電子実験施設に設置したエネルギー可変ポジトロニウムビーム発生装置を利用して、ポジトロニウム負イオンの形状共鳴を観測することに成功しました。東京理科大学、理化学研究所、高エネルギー加速器研究機構の共同研究です。結果をNature Communicationsに発表しました。

4.アルカリ金属蒸着表面からのポジトロニウム・ポジトロニウム負イオン放出の研究
 低速陽電子を金属表面に入射するとポジトロニウムが生成することは古くから知られていますが、その生成機構に関しては未解決のままでした。この現象について、高エネルギー加速器研究機構低速陽電子実験施設に設置されたポジトロニウム飛行時間測定装置を用いて調べました。その結果、ナトリウムの蒸着に伴って、5eVのエネルギーをもつポジトロニウムの生成エネルギー率が飛躍的に増大することがわかりました。この現象は、金属表面におけるポジトロニウムの生成には、表面近傍の低電子密度領域が大きく寄与していることを示しています。東京理科大学と高エネルギー加速器研究機構の共同研究です。結果をSurface Scienceに発表しました。
 今後はナトリウムのみならず、他のアルカリ金属についても系統的な実験を行い、ポジトロニウム・ポジトロニウム負イオン生成機構の解明を行っていきます。

5.その他の研究
 「ポジトロニウム負イオンの光脱離を利用したポジトロニウムビーム科学の展開」の研究の遂行に伴って、新たな発想を得て行われた研究がいくつかあります。

5−1 ポジトロニウム負イオンの検出によるタングステン中の陽電子拡散定数の測定
 タングステンなどの表面にセシウムやナトリウムを蒸着すると、入射した陽電子のうち2%程度がポジトロニウム負イオンとして放出されるようになります。これらのポジトロニウム負イオンは、表面付近に電場を掛けて加速すれば速度を持った状態で消滅するため、放出されるγ線はドップラーシフトします。このようなγ線は、通常の陽電子の対消滅によって放出されたγ線とエネルギーが異なり、エネルギースペクトル上で容易に分離することが可能です。陽電子の入射エネルギーを変えながらこのようなポジトロニウム負イオンからのγ線の数を計測することによって、試料中の陽電子拡散定数の信頼性の高い値を測定することが可能になりました。結果をNuclear Instruments and Methods in Physics Research Bに発表しました。

5−2 陽電子消滅誘起イオン脱離の研究
 固体に入射した低速陽電子は表面近傍の内殻電子と対消滅することがあります。これによって表面近傍の原子の内殻がイオン化され、それに伴って正イオンが放出されると考えられます。このような現象について東京理科大学の研究室に設置された低速陽電子ビーム発生装置を用いて調べました。試料に二酸化チタンを用いて測定した結果、酸素の正イオンが検出されました。二酸化チタンでは、内殻イオン化に必要な閾値を超えるエネルギーを有する電子を入射すると、酸素正イオンが放出されることがわかっています。本研究では、その閾値よりも低い入射エネルギーでも酸素イオンが検出されました。このことは、酸素イオンの放出が、陽電子と内殻イオンの対消滅によって起こっていることを示しています。
東京理科大学と立教大学の共同研究です。結果をPhysical Review B (R)に発表しました




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