放射線計測

(2) β線の最大エネルギー



  1. 目 的
  2.  同位元素より放出されるβ線(電子)を GM 計数管で測定し、吸収板を用いて最大エネルギーを決定する。


  3. 解 説
  4.  GM 計数管については「GM 計数管の特性」の項目で説明してあるが、この実験を行うために本質的なことを若干説明する。GM 計数管による検出の機構は、β線の場合β線自身が計数管内の気体を電離し、電子なだれ現象を起こし電流パルスとして検出される。しかしγ線の場合は直接気体を電離する確率は少なく、管壁からの2次電子がその主役をなしている。このため GM 計数管の検出効率はβ線に対しては、ほとんど 100 % であるのに対してγ線に対しては 1 % 程度で、X線程度の波長の電磁波の場合でも数%である。また陽子や粒子等重い荷電粒子になると数 MeV 程度まで窓を通ることができないため検出不能である。もう1つの特徴は GM 管で検出されるものはβ線、γ線いずれにしても電流パルスでは区別がつかないことである。
     次にβ線の透過、吸収について少し説明する。β線が物質にはいるとその電子との間に非弾性散乱が起こる。β線のもつ運動のエネルギーに比べて1回の非弾性散乱によって失うエネルギーは非常に小さい。このため十分厚みを持たない物質中に入ったときはこの物質を通りぬけ入射側とは反対側にでる。これを透過β線と呼ぶ。透過β線は物質の厚みが極端に薄い場合を除いて非弾性散乱を行っているため、入射時よりエネルギーは低く、方向も変化している。
    β線の入射方向に垂直に物質を入れ、その厚さを増してゆくと透過β線の数は減少し、ある厚さに達するとついにゼロになる。この物質の厚さの変化に対して透過β線の数を図示したものを吸収曲線と呼び、透過β線の数がゼロになる厚さをこのβ線のその物質における最大飛程と呼ぶ。この最大飛程は厚さを [mg/cm2] の単位で表せば、どの物質についてもほぼ同じぐらいの値になる。
     連続スペクトルをなすβ線の最大エネルギーを簡単に求める方法として吸収曲線を利用する方法がある。以下、Feather の方法について説明する。この方法は未知試料と同一条件で測定した標準試料(一般には RaD + RaE、あるいは 32P)の吸収曲線を必要とする。ここでは 32P を標準試料として分析方法を説明する。

    “Featherの方法”
    1. 標準試料の吸収曲線が描けたならば、その最大飛程 (32P の最大飛程は780 [mg/cm2] )の 1/10,2/10,・・・・,9/10 の点を横軸上に 1′,2′, ・・・・ 9′ととる。
    2. 横軸上の 0′,1′,2 ´・・・・ 9′を縦軸と平行にのばし、吸収曲線と交わった点を縦軸に投影した点を 0,1,2, ・・・・ 9, とし、これを別紙に写し取る。これを Feather Analyzer と名づける。(図1)
    3. 未知試料の吸収曲線を標準試料の場合と縦軸の尺度が同一の半対数方眼紙に描く。(横軸上の尺度は同一でなくともよい)
    4. Feather Analyzer の零点を未知試料の吸収曲線の吸収零の計数率のところに合わせて 1、2、---- 9、を横軸に平行に延ばし、吸収曲線と交わった点を縦軸にそって延ばし横軸と交わる点を r1、r2、---- r9 とする。(図2)
    5. n に相当する吸収体の厚さを r とし Rn = r × (10/n) の値を n = 1、2、------ 9 について計算し、横軸に n、縦軸に Rn をとり図をかく。(図3)
       この曲線をなめらかに外挿し、n = 10 に相当する Rn=10 を求める。この Rn=10 が最大飛程で最大エネルギーは次の式より算出する。

      R = 0.542 E−0.133     3   [Mev] > E > 0.8 [Mev]

      R = 0.407 E1.38     0.8 [Mev] > E > 0.15 [Mev]

      ただし R は [g/cm2] 、E は [MeV] 単位

      fig5.jpg fig6.jpg
      図 1 図 2

      fig7.jpg

      図3 飛程の求め方


  5. 実験課題
  6.  β線の最大エネルギーを推定したり、あるいは GM 管の入射窓によるβ線の吸収を補正して、吸収ゼロの真の計数率を推定したりするときには吸収曲線をとる必要がある。β線の吸収曲線は GM 管の種類、線源と GM 管の距離、線源の形、吸収体の種類とその置かれている位置などで異なるが、本実験では 204Tl のβ線を Al を吸収体としてその吸収曲線を作成する。次に 90Sr、60Co の線源を未知試料と考えて Feather の方法を習得する。(204Tl の最大飛程は 300 [mg/cm2] とする)


  7. 実験の手順
    1. 試料線源から 204Tl を測定台の試料棚に置く。
    2. 数 100 [mg/cm2] の吸収体を線源の上の棚に載せ、吸収後の計数率が自然計数を含めて自然計数の約倍ぐらいになるようにする。
        そのときの吸収体の厚さを記録しておく。
    3. 自然計数を 10 回(分)以上測定する。
    4. 吸収体がないときの計数率を測定する。
    5. 吸収体として(2)で求めた厚さの約 1/10 くらいのものから順に吸収体の厚さを増して計数率を測定する。吸収体の厚さをしだいに増加してゆくと計数率が小さくなるので測定時間を長くすることが必要である。また自然計数率の測定は途中でも少なくとも1回以上(測定時間は短くてもよい)測定することが望ましい。
    6. 自然計数率を 10 回(分)以上測定する。
      以上の計数値から半対数方眼紙上に吸収曲線を描く。縦の対数軸に真の 計数率(測定値−自然計数)をとり、横軸に吸収体ゼロの点を方眼紙の左端よりいくぶん右側にとって吸収体の厚さを目盛って、吸収体の厚さ−計数率の曲線を描く。
      つぎに 90Sr−90Y を測定棚に置き、前述と同じ方法で吸収曲線を測定する。同様な操作を 60Co についても行う。


  8. 考 察
    1. 吸収曲線を作り、その曲線より GM 計数管の窓および空気層によって吸収された補正を行い、吸収ゼロの真の計数率を推定せよ。
    2. 幾何学的効率のみを考慮して線源の強度を推定せよ。
    3. 204Tl、90Sr、60Co の3種の吸収曲線につき比較検討せよ。



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