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有機化学 Chitin-Pd触媒によるニトロ化合物の還元
ニトロベンゼンからアニリンへの還元反応は、高等学校の有機化学における重要な反応の一つです。 生徒実験では主にスズと塩酸による方法が用いられてきましたが、 重金属廃液の処理や実験室の環境汚染といった問題がありました。 重金属の代わりに、クリーンな還元剤としてギ酸や水素を用いる方法もあります。 ただしこれらを用いた還元反応では、白金(Pt)やパラジウム(Pd)などの触媒が必要となります。 白金は非常に高価なため高等学校では扱いにくく、また工業的によく用いられるパラジウム炭素触媒は反応活性が高く、 有機物と接触した場合に発火する危険性があるため、取り扱いに注意が必要であり、 やはり高等学校で使用するのは難しいといえます。 そこで廃棄物であるキチン(Chitin)にパラジウムを担持させた、 Chitin-Pd触媒によるニトロベンゼンの還元のマイクロスケール実験を検討し、 安全と環境に配慮した実験教材の開発を目指しています。 ![]() ![]() |
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諸国の科学・理科教育 ポーランドにおける化学教育
近年、フィンランドなどの北欧諸国は、学力が世界のトップクラスにあることで注目されています。しかし、 これら各国の教育制度は独自の文化や価値観、歴史的背景に大きく影響されるため、 日本で即時導入という訳にはいかないのが実状です。 一方、ポーランドでは、1980年代後半からの民主化に伴い、1999年に教育制度の改革が行われました。 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、OECD加盟国の中でも、高等教育への進学率など様々な面で比較的伸び率が高くなっています。 化学オリンピック等での好成績もあって、教育面で注目されている国の一つです。ポーランドのように、 教育的に最近大きく伸びてきた国に焦点を当てることは、日本にとっても非常に参考になる点が多いと言えます。 現在はポーランドへの留学経験を活かし、同国の歴史的背景をふまえながら、 初等・中等教育で用いられている化学の教科書を日本のものと比較・検討しています。 アダム・ミツキェヴィチ大学HP http://www.guide.amu.edu.pl/amu/index.htm |
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有機化学 陰イオン界面活性剤を用いたビタミンCと鉄塩によるニトロベンゼンの還元
ニトロベンゼンの還元には色々な方法がありますが、高校化学の教科書にはスズと塩酸を用いたものが記載されています。 しかし多量の重金属廃液が生じるなど、この反応を教育現場で行う際には様々な問題点があるため、 より環境負荷の少ない実験法が求められているといえます。 安全な試薬を用いること、反応をマイクロスケール化すること、有機溶媒を用いないこと。以上を主な目標とし、 井上法をベースにしたよりよい実験法を研究しています。具体的には、ビタミンCを還元剤、鉄(II)イオンを触媒として用い、 水に溶けにくいニトロベンゼンを水溶媒中で反応させるために、界面活性剤を添加して水層と有機層をなじませる工夫をしています。 ![]() また、生徒がこの実験を簡単に行うことができるように、試験管を用いた反応装置、 および熱湯による加熱方法の検討も行っています。 |
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有機化学 ベンズアルデヒドを速やかに酸化させるための触媒の開発
ベンズアルデヒドは空気中に放置しておくと、酸素によって酸化されて安息香酸に変化します。この反応は比較的安全性が高く、 また無色の液体が白色の固体に変化するという視覚的な効果もあるため、実験教材として用いることが可能であれば、 酸化反応の理解を深めることができると期待されます。 しかし実際には、反応の速度が遅いために固体が析出する様子を観察し続けることは困難であり、 50分という授業時間も考慮すると反応時間の短縮が望まれます。そこで、反応を促進するための触媒としてニッケル(II)化合物に着目し、 高校生にも調製しやすいカルボン酸塩の開発に取り組んでいます。 ![]() 触媒を用いると反応が速やかに進むことが実感できるので、 この教材は有機化学だけでなく反応速度の分野にも利用できると考えています。 |
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木材化学 火おこしの科学
火おこしは単純な現象と考えられがちですが、実際は様々な要素が絡み合って起きる複雑な現象です。そのため、 総合的な理科教材としての利用が期待される一方で、成功率の低さが問題点として挙げられます。 本研究では火おこしを有効な教材とすべく、生物(植物細胞)・物理(摩擦、熱)・化学(含有成分)の観点から検討を行い、 火おこしが成功しやすい条件を探究しています。また、 その中で火おこしの発火を阻害してしまう現象である「平滑化※」が問題点として浮上してきたため、 平滑化の原因を調べるとともに、平滑化状態を打破しやすい木・しにくい木についての考察を行っています。 ※平滑化…摩擦によって木材の表面がつるつるになり、木屑が生じにくくなる現象。 |
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有機化学 安全なエステルのけん化
「けん化(鹸化)」とは、エステルを塩基によって分解し、カルボン酸塩とアルコールにする反応です。 セッケン作りの実験を行う場合、エステルの一種である油脂を高濃度の水酸化ナトリウム水溶液でけん化する方法が一般的ですが、 強塩基性の水酸化ナトリウム水溶液は皮膚や目に付着すると細胞組織をおかすため、安全上の問題があるといえます。 本研究では、エステルのけん化反応を安全に行うことを目的とし、界面活性剤を利用した実験法の検討を行っています。 これにより水溶媒中で反応させることが可能になるため、 例えば油脂のけん化反応において引火性のあるエタノールを添加する必要がなくなり、 また用いる塩基の濃度も下げられると考えています。 「けん化」の実験というとセッケン作りが有名ですが、サリチル酸メチルのような芳香族エステルのけん化反応や、 ペットボトルなどポリエステルのけん化反応へと発展させていく予定です。 |
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有機化学 芳香のあるアルデヒドの合成
私達の日常生活には様々な「におい」が満ちあふれています。身近な題材で誰もが関心を持つはずの「におい」は、 魅力的な化学教材であるといえますが、単独に実験教材化されている例はあまり見られません。 そこで、香料の合成実験の教材化を目指して研究を行っています。 高校化学で「におい」のする実験といえばエステルの合成がよく知られていますが、 本研究で着目したのはアルコールの酸化反応です。ベンジルアルコールやケイ皮アルコールを酸化すると、 それぞれ杏仁豆腐のようなにおいがするベンズアルデヒド、シナモンのにおいがするシンナムアルデヒドが生成します。 アルコールの酸化をアルデヒドで止めることのできる酸化剤である酸化マンガン(IV)は、 水溶媒中で有機化合物との親和性が低いため、界面活性剤を加えて反応条件の検討を行っています。 ![]() 芳香をもつアルデヒドには、上記の他にもバニラのにおいがするバニリンなどがあり、 こちらも教材化に向けた研究を行っていきたいと考えています。 |
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有機化学 Chitin-Auを用いた還元性有機化合物の検出
「甘い」「水に溶けやすい」といった特徴をもつ身近な物質である糖類は、重金属イオンを還元できる「還元糖」と、 それ以外の「非還元糖」に分類されます。これらの違いを調べる方法としては銀鏡反応やフェーリング液の還元が一般的ですが、 臭気や重金属廃液の処理などいくつかの問題点があります。 本研究では新規な還元糖の検出法として、キチン(Chitin)に金を担持させたChitin-Auの利用を検討しています。 酸化数+III の状態でキチンに担持されている金は、還元性の化合物と反応すると微粒子になって色が変化するため、 この性質を利用して還元糖の検出ができると考えています。 還元糖だけでなく、還元性の有機化合物一般に対してもChitin-Auが使えるかどうか、 またChitin-Auを種々の反応の触媒として用いる実験について検討予定です。 ![]() |
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有機化学 濃硫酸を用いないエステルの合成
分子量の小さいカルボン酸エステル(酢酸エチル等)は比較的沸点が低く、揮発性があるため、 香料などに使われています。エステルの合成を高校の実験で行う場合、 カルボン酸とアルコールの混合物に濃硫酸を加える方法が一般的です。 この方法には、濃硫酸を用いる危険性や、 過剰量のカルボン酸またはアルコールを用いることによる廃液の増加および環境への負荷が問題点として挙げられます。 この問題点を解決するため、濃硫酸を使用せず、 カルボン酸とアルコールを1:1で反応させるエステル化反応のマイクロスケール実験教材開発を目標として研究を行っています。 具体的には、シリカゲルに担持させたホウ素酸化物(エステル化剤)を用いて、 より安全で環境への負荷が小さいエステル化反応を検討しています。 ![]() |
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有機化学 クメン法のマイクロスケール実験教材開発
フェノールは、医薬品、殺虫剤、染料、樹脂など、日用品の原料として幅広く使われており極めて重要な物質です。 そのため、高校の有機化学分野を学習する上でもフェノールを合成するプロセスは重要な内容といえます。 しかしながら、一般的なフェノールの合成法であるクメン法は、 加圧が必要なことや反応効率が悪いことなどの理由から中等教育向けに実験教材化されていません。 そこで1授業時間内にフェノールを検出するために、クメンを原料としたマイクロスケール実験教材の開発を目指しています。 現在はその中間生成物であるクメンヒドロペルオキシドの検出法と、 酸素雰囲気下での反応を簡単に行うための実験装置の開発を行っています。 ![]() |