なぜポルフィリンなのか?と聞かれます

ポルフィリンの研究テーマが多い研究室なので、しばしばなぜポルフィリンなのかと聞かれます。いくつか理由があります。1つは作る楽しみ。ポルフィリン合成の際にはコールタールみたいな黒い物質がほとんど必ず副生しますが、この中からダイヤモンドのように(感じ方に個人差があります)輝くポルフィリンが掘り出されると喜びを覚えます。2つ目は、ポルフィリンの多彩さ。ポルフィリンは光合成系で用いられているクロロフィルと類似の構造をした色素です。可視光を強く吸収するため、色素同士が接近することによって相互作用が起こります。この相互作用によって色が変化する(正確には吸収スペクトルが変化する)ために、何かが起こっていることがどの研究室にもあるような汎用の装置で検出ができます。このような変化を検出できる色素は意外に少ないのです。この光学的な特性に加えて、ポルフィリンは金属イオンを取り込むことによって配位結合を形成します。取り込める金属の種類は様々ですが、亜鉛イオンを使った研究が多いです。金属ポルフィリンの光学特性、配位化学については、昔から研究されていて、いわば「かなり分かっていること」です。現代でもよく分かっていないことは、複数の金属ポルフィリンあるいは金属ポルフィリンと別の機能性分子が組み合わさったときに起こる現象です。光合成関連の研究の過程で、単独のポルフィリンでは起こらない現象がつぎつぎに見つかります。「なんなんだ、これは!」という感じです。この興味深い現象を探求していくのが、今の佐竹研のテーマ設定方針です。光合成系はあまりに複雑ですごいので、完全な人工構築はいまの人類には不可能(個人的な意見)ですが、光合成研究から生まれる派生化学は大学の1つの研究室でも研究できます。というよりも、大学が基礎研究としてやるべきことと信じています。なにせ今は誰もやっていないニッチな領域ですので。

 

2023年02月02日